プロローグ
都内某所のある施設。
「せんせえ、せんせえ。これなあに。」
一人の少女が、1枚の古ぼけた紙を持っていた。
「まあ、これ何処から持って来たの。」と優しく聞いた。
「物置の中に落ちてたの。」
「ということは、物置の中に入ったのね。ダメだって言ってるでしょ。」
「ああっ。御免なさい。せんせい。怒らないで。」
「怒らないわよ。でも、手が汚れてるわよ。洗ってきなさい。」
「は〜い。美穂せんせい。」と言って、元気に洗面所に少女は駆けていった。
美穂と呼ばれた女性は、その紙を見て、呟いた。
「もう13、ううん、14年も経ったのね。あれから」
その紙には、こう記載されていた。
「銀河戦争。グラードコロッセオにて開幕」
聖闘士星矢 新たなる戦いの序曲
唐突に起こり、唐突に終了した、謎の皆既日食と惑星直列現象。
ありえる筈の無いその天体現象に、各国の天文学者達は頭を悩ませた。
ある学者は、「あれは神の行いである」などと言って学会で笑い者になっていた。
しかし、それが的を射ていることを知っている者が僅かに存在していた。
神々の国ギリシャ。この国にはギリシャ人にすらその存在を知られていない地域が存在する。
冥王ハーデスが地上を暗黒の世界とする為に起こした現象。
グレイテスト・エクリップス。
そのハーデスと戦う為に、この世に生を受けたアテナとアテナの聖闘士の本拠地、聖域である。
この世に邪悪が蔓延る時、邪悪を滅ぼし地上を守る戦いの女神アテナと聖闘士の本拠地である。
そのアテナとアテナの聖闘士が、ハーデスの本拠地である冥界、エリシオンに乗り込み、
ハーデスを倒しグレイテスト・エクリップを阻止したのである。
ハーデスとの戦いは「聖戦」と呼ばれていた。その「聖戦」はアテナと聖闘士の勝利に終わったのだ。
そう。戦いは終わった筈であった。
なのに、「聖戦」終了から14年後の今、聖域では再び戦いの準備が行われていたのだ。
聖域の中にある闘技場。その中心にいるのは簡単なプロテクターを装着しているだけの少年が2人。
顔をマスクで隠した妙齢の女性が2人の計4人が居た。
闘技場の観客席には十数人の人間が居り、最上段には法衣を纏い、仮面を被っている長身の人物が居た。
そして、その長身の人物の横には、1個の箱があった。
「これより、決勝戦を行う。そなたら両名はこれまで9人の相手と戦い勝ちぬいてきた。残ったのはお前達2名のみ。
今日、戦って勝ち残った者がアテナの聖闘士となる資格を得ることが出来る。その者には、」
横の箱に手をやり、
「栄誉ある聖闘士の証である、この聖衣を与える。」済んだ声が闘技場内に響き渡った。
「魔鈴。今回はこちらが勝たせてもらうよ。」
「シャイナ。そうはいかない。と言いたいところだが、どうなるか正直わからないな。」
「やけに弱気じゃないか。そんなに弱い訳じゃあないだろ。」
「そうだが、正直言うと、まだ海のものとも山のものとも分からないところがあるからね。あの子は。」
「しっかりしなさいな。あんたがあの子を託されたんだよ。今更。」
「ああ。そろそろ始まる頃だぞ。教皇代理のお声がかかるぜ。」
「ジャオウ、そしてセイヤ。両名の戦いを開始する。」
教皇代理と呼ばれた人物の声が響くと同時に、ジャオウと呼ばれた少年とセイヤと呼ばれた少年が、激しくぶつかり合った。
「どりゃ〜。」、「でやぁ〜」
この両名の戦闘方法は、ある意味では非常に似通っているが、ある意味では対照的ですらあった。
両名ともそれほど大きくはない体格の為、パワーよりもスピードを得意として、拳や蹴りを放っていた。
しかし、セイヤの攻撃が主に直線的であるのに対して、ジャオウは曲線的な動きにより攻撃を繰り出している。
セイヤがストレート系、ジャオウがフック、アッパー系の攻撃で相手を狙っていた。
しかし、両者共に決定打を決められぬまま、十分が過ぎようとしていた時、期せずして両者は距離を取った。
「へっ。これでは埒が明かないな。セイヤよ。」
「そうだな。ここらで一機に決めるとすっか。ジャオウ。」
「望むところよ。ハア〜〜〜〜〜〜〜。」
「ムオ〜〜〜〜〜〜〜〜。」
二人の少年が次の一撃で決める為に力を込め始めた。それを見て魔鈴は、
「遂にここまで来たよ。星華ちゃん。セイヤはここまで来たよ。」と呟き、昔の事を思い出していた。
ハーデスとの聖戦が終わり、アテナは地上に戻ってきた。
だが、聖域に凱旋したはずのアテナと聖闘士達は、悲しみに包まれていた。
勝利というには、あまりに大きな損害を受けていたからである。
慰霊地。聖闘士が眠る場所。アテナと生き残った全聖闘士がそこに居た。
ここに墓碑銘を刻まれた墓標が新たに置かれていった。
MU GOLD ARIES
ALDEBARAN GOLD TAURUS
KANON GOLD GEMINI
AIOLIA GOLD LEO
SHAKA GOLD VIRGO
DOHKO GOLD LIBRA
MIRO GOLD SCORPIUS
OLPHE SILVER LYRA
そして
SEIYA BLONZE PEGASUS
「星矢、星〜〜〜〜〜〜矢。」悲しみの声が聖域に響き渡る。
ようやく再開を果たせたはずの姉弟は、無言の再開となってしまった。
アテナを庇い、星矢がハーデスの魔剣を受けて死亡したのである。
聖域に戻った直後、ペガサスの神聖衣は星矢の体から分離し、シンボル形態となった。
そして、光を放った後、それは神聖衣ではなく元の青銅聖衣になっていた。
それが、星矢の完全な死の宣告となってしまった。
何時までも星矢の墓標に縋り泣き続ける星華に魔鈴が声をかけようとした時、
「生き残りの全聖闘士は、直ちに教皇の間に集結しなさい。」アテナの声が響いた。
星華を闘技場近くの小屋で休ませて、全員で教皇の間に向かった。
全員が集まった前で、アテナは感謝と労いの言葉をかけた。
だがその直後、アテナはアテナ神殿に向かいだした。
神聖衣を纏う4人のみを引き連れて、残りは教皇の間に残らせたまま。
少しの時間が経過した時、アテナ神殿から4つの小宇宙が四方に飛び去るのを感じた。
そして教皇の間にアテナの声が聞こえてきた。
「祭壇星座アルターのニコル。あなたを教皇代理として聖域と全聖闘士を統括する役目に任命します。」
「アテナ。それはいったい。」
突然のことで訳がわからずに聞き返す。
「戦いは終わったのでは、ありませんか?」
「残念ですが、まだ終わっていません。時間がありません。あなたには新たな聖闘士を育成してもらわねばなりません。
14年後の12月1日までに。他の者もお願いします。」
それを最後にアテナの小宇宙も消えてしまった。
驚いたニコル、シャイナ、魔鈴の3人がアテナ神殿に向かったが、そこには誰も居なかった。
アテナも、アテナに付いていった4人の聖闘士も。
「これはどういうことなのだ。アテナは一体何処に?」
「ニコル様。シャイナ。こっちに。」
ニコルとシャイナは魔鈴に呼ばれ、アテナ像の台座の前に来た。
「この台座の中から僅かながらにアテナの小宇宙を感じます。アテナはこの中に。」
「しかしこの小宇宙は。そうか。アテナはこの中で眠りについたのか。」
「眠り?」
「そうだ。先程の話を思い出せ。戦いは終わっていないというあの話を。
アテナはその時まで眠り続けることにしたのだ。そうすることで小宇宙を高め温存しようというのだ。
つまり、それほどの敵が来るということであろう。僅かな時間しか話せないほどに急がれていたのだから。」
「それが14年後の12月1日だと。その日が新たな戦いの始まりの日だというのですか。」
「恐らくそうだろう。そしてそれまでに戦力の激減した我等は新たな聖闘士を育て上げねばならないということだ。」
「しかし、今回の聖戦までに黄金と白銀の大半が命を落とし、主のいない聖衣は青銅のみ。その青銅を全員集めても。」
「分かっている。だがそれでもやらねばならん。アテナのご命令ならば。」
「今回の聖戦までに死んだ黄金と白銀聖衣に後継者が現れればいいのだが。」
「そういうことなら、あの4人は何処に行ったのだ。それほどの戦いならば神聖衣を纏うあいつ等の戦力こそ不可欠の筈。」
「分からぬ。しかし今は組織の建て直しが急務だ。こうしてはおれん。魔鈴、シャイナ、急ぐぞ。
聖衣の修復は貴鬼にやってもらうしかないとして、行方の分からぬ聖衣もあるからな。それをどうするか。」
「ニコル様。いや、教皇代理。それはこれから全員で考えましょう。」
「そうだな。」
そうして、白銀聖闘士である祭壇星座アルターのニコルが教皇代理として、全聖闘士を統括する。
シャイナと魔鈴、二人の白銀聖闘士が育成と戦闘指揮の任に付き、戦力の回復を開始した。
中でも皆を悩ませたのは、黄金聖衣の被害である。5つの黄金聖衣が破壊されてしまっているのだ。
アテナの力によって破片は回収されてはいるものの、貴鬼の力ではまだ修復は不可能であるし、
なにより、血を与える黄金聖闘士が一人も居なくなってしまったことが最大の問題であった。
とりあえず、残り7つの黄金聖衣でなんとかするしかない。というところであった。
それから8年後、魔鈴は不思議な現象を目の当たりにする。
ある満月の夜、魔鈴は不思議な小宇宙を感じて闘技場に一人向かった。
そして闘技場の中に誰か居るのを確認し、その相手に警戒しつつ魔鈴は近づいた。
雲に隠れていた月が顔を出し、闘技場を光で照らした時、魔鈴は驚愕した。
「せ、星華ちゃん。星華ちゃんじゃないか。」
魔鈴が驚いたのも無理はない。星華はアテナが眠りについたあの日、突如として行方を晦ませたのだった。
魔鈴たちが全力で探したにも係らず、見つからなかったのだ。
「今まで何処に居たんだい。心配していたんだよ。」声を駆けてみたものの、魔鈴は違和感を感じていた。
目の前にいるのは間違いないのに、何故かそこに存在しないような感じがするのだ。
魔鈴が戸惑って近づけないでいるのを感じたのか、星華の後ろから一人の子供が姿を現した。
その子供は仮面を付けていて、顔は分からない。たどたどしい足つきで魔鈴に近づき足にしがみ付いた。
その時、星華が初めて口を開いた。
「魔鈴さん。その子をお願いします。その子を聖闘士に育て上げて下さい。」
「えっ。星華ちゃん。それはどういう。」そこまで言って魔鈴はおのれの目を疑った。
月が雲に隠れて闘技場が闇に覆われ始めた時、星華の姿が闇の中に消えていったのだ。
「星華ちゃん。どこだ。」叫ぶ魔鈴の耳に星華の声が聞こえた。
「お願いします、魔鈴さん。運命の日までにその子を聖闘士に。セイヤを。」
「運命の日。何か知っているの。答えて、星華ちゃん。セイヤだって。どういうことなんだい。星華ちゃん。」
だが、もはや返事は返ってこなかった。それまで感じていた小宇宙も感じなくなっていた。
「夢だったのか。」夢でない証拠に、魔鈴の足元に子供がいた。
「お前は何者だい。なにか知っているのかい。」子供の両肩に手を置いた時に、子供の仮面が外れた。
その顔は魔鈴のよく知っている人物によく似ていた。しかし、その子供はなにも答えなかった。
星華のことも含めて報告の必要があると感じた魔鈴は、教皇代理の元に向かった。子供を連れて。
話を聞いた教皇代理のニコルとシャイナも、にわかには信じがたかった。
が、魔鈴がこんな嘘を言う訳ないので信じたが、どういうことなのかまったく分からない。
ニコルが子供に質問した結果、分かったことは、
名前はセイヤ。字は分からないそうだ。名前以外のことは一切分からない。星華に関しても知らなかった。
最後に、「僕は聖闘士になる。」と言って、眠りについてしまった。
正体が不明であるが、この子は託された魔鈴が聖闘士に育て上げることとなった。
何者かの罠の可能性も考えられたが、そのような邪な心の持ち主では聖闘士になれる訳ないからと却下した。
かくして、セイヤと名乗る子供は魔鈴の元で聖闘士になるべく修行を開始した。かつての星矢のように。
そして今、セイヤが聖闘士になるべく最後の勝負に挑む。
ジャオウとセイヤ。二人が渾身の一撃を放つ。二人の技がぶつかり合うその瞬間。
ニコルの横にある聖衣箱が突如として開き、そこから発した閃光が二人を包み込んだ。
「これは。」「なんだ。」「セイヤとジャオウは、無事か」
光が消えた後に皆が見た光景は、闘技場の地面に片膝をついているセイヤと、
その目の前で聖衣を装着して立っているジャオウの姿だった。
「これは一体」「どういうことなんだ」と当の二人が事態を飲み込めていなかった。
そこに教皇代理の声が響いた。
「アテナはジャオウを新たなる聖闘士と認めたのだ。その証拠として、リンクスの聖衣が自らジャオウの体に装着された。
ジャオウよ。今後はその聖衣を纏い、正義の為に戦うのだ。」
そしてジャオウは教皇代理に向き直り、片膝を付いて頭を垂れ、
「はっ。このジャオウ。山猫座リンクスの青銅聖闘士としてアテナの為、地上の正義と平和の為に戦うことを誓います。」
と宣言した。
回りからも拍手が出たが、一人納得いかない者がいた。セイヤである。
「教皇代理。あの聖衣は勝負で勝った者が貰えるんじゃなかったのか。俺は負けてない。勝負はまだ付いてないぞ。」
「セイヤよ。聖衣自身が選んだのだぞ。それに異を唱えるはアテナに対する反逆罪とみなすが。」
そう言われては、セイヤも黙りこくるしかなかった。
教皇代理が教皇の間に戻り、他の者達も退却していき闘技場にはセイヤと魔鈴が残った。
「魔鈴さん。やっぱ納得いかねえんだけど。」
「あのまま続けていたら、お前が負けていたってことだろ。」
「ん。たとえそうだったとしてもよ、やっぱ、邪魔してほしくなかったな。白黒きっちり付けたかったからな。」
「そしたら、お前は死んでいたかもしれないよ。むしろリンクスの聖衣に助けてもらったってことだろ。」
「ちっ。どうせなら死んでたほうが良かったよ。聖闘士になれないのならな。」
「そうとも限らん。お前の星座が山猫座じゃ無かっただけかもしれないぞ。」
「違う星座だってのかい。じゃあ、何座なんだよ。」
「さあね。とにかく負けたんだから、部屋に戻って反省会と再特訓だよ」
教皇の間に戻ったニコルの前に、一人の聖闘士が跪いていた。しかもその者は、黄金に輝く聖衣を纏っていた。
「久し振りだな。貴鬼よ。」
「牡羊座アリエスの黄金聖闘士、貴鬼。聖域に到着致しました。」
それは、かつてはおまけでしかなかった貴鬼の成長した姿だった。
彼もまた、過酷な修行を行い眠っていた強大な小宇宙に目覚め、アリエスの黄金聖闘士となったのだった。
「しかし、お前も大きくなったな。ムウよりも大きくなったのではないか。」
「たしかに身長はムウ様を上回りましたが、それだけです。技量のほうはまだまだです。」
「そうか。積る話はこれ位にして、報告を聞こう。その前に先日、お前の元に派遣した二人の青銅聖闘士はどうだ?」
「彫刻具座のセイロン、彫刻室座のハタリ。共に聖衣修復のサポートとしては申し分ありません。
青銅聖衣ならば、あの二人のみで修復可能です。今は白羊宮にて待機してます。」
「そうか。それは良かった。して、黄金聖衣はどうだ?」二人の顔に緊張が走る。
「牡牛座、双子座、蟹座、蠍座、山羊座、魚座の6個に関しましては、修復は完了しております。私の牡羊座も同様です。
しかし、残りの5個に関しましては、何とも成りません。」
「やはり、無理か?」
「何しろあそこまで破壊されたので、流石の黄金聖衣も死んでました。蘇らせるには大量の黄金の血が必要です。
残念ながら、私一人では到底足りません。」
「そうか。お前以外に黄金聖闘士の後継者は現れなかったからな。予言の日が明日に迫ったというのにな。」
「一つだけなら修復可能ですが。」
「貴鬼。それは成らぬと以前にも言ったはずだ。決して許さぬ。」
「わっ判りました。教皇代理。」
「お前を、やっと現れた黄金聖闘士をみすみす失うことは避けねばならんのだ。」
「承知しております。ところで教皇代理。例のセイヤはどうなりました。」
「聖闘士にはなっておらん。聖衣を授けてないからな。」
「駄目だったのですか。」
「いや。実力は聖闘士として問題無いし、表面的なだけの問題でも無いのだが、聖衣が選ばなかったのだ。」
「どういうことでしょう。他の聖衣があるということでしょうか。」
「そもそも、ここまでやってセイヤの星座が見えないのも変な話だ。聖闘士は資格を得る前でも星座が見えるはずなのに。」
「あの子は一体何者なんでしょうか。」
「それも、明日になれば判るだろう。貴鬼よ、頼むぞ。十二宮を守る黄金聖闘士はお前一人なのだからな。」
「はっ。では、白羊宮にて待機致します。」
貴鬼は教皇の間を後にして、白羊宮に向かった。他の白銀聖闘士、青銅聖闘士も配置に付いた。雑兵も含めて多くの人間が
聖域の守りを固めていた。聖衣を与えられていないセイヤも巡回の任に就いていた。
そして、運命の日。今宵は満月。月が中天に差し掛かろうとしていた。
月が中天に差し掛かった瞬間、いきなり白羊宮の前の広場に4つの異様な小宇宙が出現した。
最初に見つけたのは、巡回中で白羊宮前に来ていた4人の青銅聖闘士であった。
「キェ〜〜」「ケケケケケ」「ヒャ〜〜」「オオオオオ」
「グオッ」「がぁ」「げぶ」「うぎゃぁ〜」
しかし、僅か一言も発する間も無く、4人は瞬殺されてしまった。
一瞥するでもなく、白羊宮に向おうとした時、
「待て!何処に行くつもりだ。」
青銅聖闘士が一人、駆けつけた。だが、謎の侵入者は無視したかのように進み始める。
「貴様ら!食らえ、ユニコーン・ギャロップ。」
必殺の一撃が炸裂しようとした刹那、ユニコーンの聖衣は粉々に砕かれ、邪武はボロボロになって倒れてしまった。
「バ、バカな。」
自分の体に起きたことが邪武は全く理解出来なかった。
侵入者が更に進もうとした時、
「お待ちなさい。それ以上進むと命の保障はしませんよ。」
白羊宮から声が響く。
その瞬間、4人が纏めて襲いかかった。
「ぐっ。クリスタル・ウォール」
アリエスお得意の見えぬ壁を張ったが、それは一撃で砕かれてしまった。
その間隙を突いて、侵入者の内二人がアリエスの横を抜けていった。追いかけようとするアリエスを残り二人が阻む。
異様な二人であった。血走った眼、赤く逆立った髪をしており、赤黒い色をした鎧を纏っていた。
「けっけっけ、アリエスよ。お前の相手は我ら二人だ。あの二人を追いかけさせんぞ。」
「くっ。お前ら何者だ?何が目的で聖域に進入した?」
「くっくっく。我らは狂戦士(パーサーカー)。アレス様に仕えし狂気の戦士よ。」
「何っ!。アレスの狂戦士だって!」
その思念は教皇の間にいる教皇代理ニコルにも届いていた。
「馬鹿な。アレスの狂戦士が蘇ったというのか。アテナよ。貴女が言った敵とは、こやつらのことだったのですね。」
ニコルの全身に冷や汗が流れ始めた。敵の正体を知ると同時に、その敵に勝てない理由に思いついてしまったからであった。
白羊宮ではアリエスと二人の狂戦士の戦いが繰り広げられていた。狂戦士の動きはコンビネーションがあるようでなく、
ないようである不規則な動きである為、アリエスも突破口が開けずにいた。
狂戦士がアリエスの両側に回り、同時に技を仕掛けてきた。
アリエスも両手を開いて、それぞれ敵に向けた状態を取った。
「スターダスト・レボリューション」「ケケケケケ」「キェ〜」
3人の技がぶつかり合った衝撃は、白羊宮を完全に破壊してしまった。
異変を感じてジャオウが白羊宮に駆けつけたのは、その直後であった。
「白羊宮が壊滅している。それにアリエスの黄金聖闘士の小宇宙も完全に消えてしまっている。一体、何が」
その時、ジャオウは十二宮を上って行く敵の小宇宙を感じた。
「白羊宮が突破されたということか。一刻を争うな。」
ジャオウは十二宮を上り、敵を追い始めた。
次に白羊宮に現れたのは、なんとセイヤだった。
セイヤもまた、敵が十二宮を上っていることに気づき、それをジャオウが追っているのが判ると、
「よ〜し、俺も行くぞ。」
と十二宮を上り始めた。聖衣も無しに。
二人の狂戦士は無人の十二宮を駆け上っていた。
「きひひひ。これが鉄壁を誇る聖域十二宮とはな。」
「何の抵抗もなく、既に双魚宮まで来てしまったな。くっくく」
「見ろよ。双魚宮の出口から続く道に敷き詰められているこの薔薇を。」
「ほうう。これが猛毒の魔宮薔薇じゃねえのけ。」
「こんなもの。我等には意味が無いというに。」
そう言って狂戦士は、魔宮薔薇の中を平然と駆け上がっていった。魔宮薔薇を完全に蹴散らしながら。
教皇の間。
荒々しい音と共に、教皇の間の扉が蹴り開かれた。
「けっけっけ。他愛も無いな。これが聖闘士の総本山かよ。」
「無人の野を走るより簡単じゃねえか。」
教皇の台座に座っていたものが立ち上がった。
「貴様等、何の用が有ってここまで侵入したのだ。」
ニコルの声が響く。
「馬鹿か、手前。ここに進入してくる者の狙いなんて、神話の時代から一つしかねえだろうが。」
「そうだぜ。アテナの首と聖闘士の命に決まっとるやんけ。」
「大口を叩くな。貴様等。」
ニコルは法衣を脱ぎ捨てた。その体は白銀に輝く聖衣を纏っていた。
「貴様等如き、この祭壇星座アルターの白銀聖闘士ニコルが片付けてくれる。」
「けっけっけ。そうかいそうかい。じゃあ、俺らも名乗ろうかい。」
「そうだな。自分を倒した相手の名前も知らないようじゃ、不憫だしよ。
良く聞け。俺は、恐怖の軍団のジェガン。」
「俺は、火の軍団のシャイドよ。」
「ちなみに、白羊宮に残ったのは、炎の軍団のサープと災難の軍団のピクスって奴だけどよ。
黄金聖闘士と相討ちらしいがな。」
「これ以上、貴様等の不浄な土足で聖域を荒しまくられるのは我慢まらん。いくぞ。」
ニコルの拳が二人の狂戦士に襲い掛かる。
狂戦士は左右に分かれて回避する。
「聖闘士ってのは、やっぱ馬鹿だな。一人で我ら二人を相手に出来るとでも思ってるのか。」
「い〜や。二人だ。」
扉の方向からしたその声に、三人そろって扉の方向を見た。
「山猫座リンクスのジャオウ。只今到着しました。これで2対2だ。覚悟しろ、賊どもめ。」
「けっ、たかが青銅のガキ一匹じゃねえか。何の足しになるかよ。」
「やかましい。食らえ「シャイニング・ヘル・クロー」。」
だが、シャイドと名乗った狂戦士は片手でジャオウの攻撃をいなし、腹部に蹴りを食らわした。
「がぁ。」蹴りを食らったジャオウは吹っ飛び、壁に激突し床に倒れ付してしまった。
「ジャオウ!。貴様等!」
「ニコルとやら。貴様は教皇代理だそうだな。」
「それがどうした。」
「だったら、貴様は解っている筈だな。聖闘士が我ら狂戦士に勝てない理由が。」
それを聞いたニコルの顔は、苦虫を噛み潰したかのように歪んだ。
「やはりな。解っているのなら無駄な抵抗は辞めたらどうだ。大事な命、無駄に散らすこともなかんべや。」
「そ、それはどういう意味だ。」
部屋の奥から弱弱しい声が聞こえてきた。ジャオウがよろめきながらも立ち上がったのだ。
「ほう。まだ息があったのか。なかなかしぶといな。」
「それよりも、俺達が手前等に勝てねえってのは、どういうことだ。」
シャイドがニヤニヤしながら、
「知りたいか。ニコルさんよ〜。教えて上げたらどうだい。」
だが、ニコルは答えない。歪んだ表情のまま。
「答えられないか。なら教えてやるぜ。但し、絶望感に囚われてもいいならな。」
シャイドが得意げに話し始めた。
「我ら狂戦士はな、幾多の聖戦の歴史の中で唯一天秤座の武器を使わなければ倒せなかった相手なんだぜ。」
ジェガンが後を続ける。
「貴様等聖闘士は、素手で戦うことを義務付けられていて、武器の使用は禁止されているそうだな。
それ故に、海闘士だろうが冥闘士だろうが武器を使わずに、素手でのみ戦ってきた。
しかし、我ら狂戦士だけはそうはいかず、黄金聖闘士全員が天秤座の武器を使って戦って、ようやく勝つことが出来た。」
ジャオウの顔色が変わってきていた。
「やっと理解出来たか。つまり我ら狂戦士を倒すには、12人の黄金聖闘士と天秤座の武器が不可欠ということだ。
だが、今はそのどちらも存在しない。そういうことだ。」
「きょ、教皇代理!」
ジャオウがニコルに声をかけるが返答が無い。それは狂戦士の言っていることが事実だと証明していた。
「わかったか。だったら無駄な抵抗はやめ。うぎゃ〜」
「シャイド!」
シャイドが突如、ぶっ飛ばされた。扉に眼をやったニコルが叫んだ。
「セイヤ!」
「何やってんだよ、ジャオウ。こんな奴らさっさと片付けちまえよ。」
セイヤが教皇の間に飛び込み、即座に拳を放ったのだ。ジェガンがセイヤに向おうとした時、
「待て、ジェガン。」
シャイドが立ち上がった。その眼は火のように赤くなっていた。
「良く見りゃ、聖衣も着てない雑兵じゃねえか。このやろ〜」
シャイドの体が一瞬にしてセイヤの後ろに回り込んだ。そして、怒りの狂拳がセイヤを襲った。
「ぐわあ〜。」
セイヤの体に数十発の拳が叩き込まれた。
「雑兵如きがよくもやってくれたな。貴様の体をバラバラにしてやるぞ。」
怒りの一撃がセイヤを襲い、教皇の台座の奥の壁まで吹っ飛ばされた。
「セイヤ!」
ジャオウとニコルの声が響く。しかし、セイヤの体は崩れた壁の奥の部屋の中に倒れたまま、起きて来ない
だが、シャイドの怒りはまだ収まっていなかった。
「首を切り落としてやる。」
セイヤの倒れた部屋にシャイドは入っていく。
阻止しようとしたジャオウとニコルは、ジェガンの邪魔に合い向うことが出来ない。が、その時、
「ぎやぁ〜!!」
突如として、シャイドの体が奥の部屋の中から吹っ飛んできた。そのままの勢いで壁に激突した。
しかも、シャイドの体を守っている筈の赤黒い鎧が粉々に砕け、口からも血を吐いていた。
「きっ、貴様、何故?」
それがシャイドの最後の言葉となった。そのまま床に倒れ絶命したのだ。
「いったい、何が?」
ニコル、ジャオウ、そしてジェガンが奥の部屋に眼を向けた。部屋の中に見えたのは、
右の拳を突き出した状態で立っているセイヤの姿だった。しかも聖衣を纏った状態で。
「セイヤ、その聖衣。どうしてお前が。」
ニコルが叫んだその時、
「きっさっま〜。殺してやるぞ〜。」
ジェガンがセイヤに向って、襲い掛かった。しかし、セイヤは動かない。
「セイヤ〜。」
セイヤは動けないのではなかった。感じていたのだ。
「今のは何だ。そして、この力は。体の奥から湧き出てくる、嫌、命の源から湧き出てくるこの力は。
全身に染み渡っていく。力が沸いて来る。そうか。これが小宇宙。これが聖闘士の力の源。根源たる小宇宙なんだ。」
ジェガンの拳がセイヤに届こうとする直前、セイヤの体が動いた。セイヤの両の拳がある星座を描いた、その時、
「解る。解るぞ。これが俺の聖衣。これが俺の力。これが俺の小宇宙なんだ。
燃え上がれ、俺の小宇宙よ。ペガサス流星拳。」
無数の流星が走った。
同時にジェガンの体は、ジャオウと同じ壁に叩きつけられていた。同じように鎧を砕かれて、同じように床に倒れこんだ。
「セイヤ!」
ジャオウがセイヤに駆け寄った。それを待っていたかのように、セイヤはジャオウの腕の中に崩れ落ちた。
ニコルもセイヤの元に駆け寄ろうとした、その時、
「いい気になるなよ、聖闘士ども。」
瀕死の状態のジェガンが言葉を発した。
「我らに勝った位で、いい気になるなよ。しょせん我ら4人は各軍団それぞれの末席にすぎぬ。」
「何、貴様等が末席だと?」
「そうよ、各軍団13人衆の末席にこれだけ苦戦するようでは、我らの上位者には所詮勝てぬわ。
我らの勝利は決まったようなも、ゲブッ!」
ジェガンの命もそこで尽きた。
その時、ニコルは感じていた。アテナ神殿に僅かながら小宇宙の変動が存在するのを。
「この小宇宙は?そうか、遂に女神が目覚める時がきたのか。」
だが、そのニコルでさえ、世界のある4箇所で発生した小宇宙までは気づく由も無かった。
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あとがき
スーピー君1億129号さんからいただきました素敵小説です。
内容は原作終了後、ハーデス編の14年後のお話。
戦神アレスと狂戦士が敵というオリジナルストーリーです。
スーピー君1億129号さん、どうもありがとうございました!
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