その時、ミーメは・・・・?
「・・・バド・・・・・」
いつもの湖畔、月光を浴びながら、1人、彼のことを想っていた。
逢いたい人は、もうここにはいない・・・・
バドは、彼は、弟・シドと今ごろは家族の、兄弟の温かさに触れていることだろう。
そう、もう彼は、ミーメには手の届かない存在になってしまったのだ。
どんなに彼に恋焦がれようとも、もう愛する人は側にはいない・・・
彼の、幸せを壊すことなんかできない。
今はただ、彼の、バドの幸せだけを考えよう・・・
そう想い、ミーメはそっと竪琴を取り出すと、静かに旋律を弾き始めた。
それは、想い人へと贈る、別れの歌・・・
ミーメは瞳を閉じて、1人、その旋律に耳を傾ける・・・
叶うならば、彼が、バドがここへ来てくれることを祈りながらも、それは叶わぬと分かりながらも、そうミーメは想っていた。
(バド・・・バド・・・君に、逢いたいよ・・・・)
その時、バドは・・・?
必死でシドの毒牙から逃れようとしていた。
「ま、待て待て!シド!俺たち男同士だぞ!!それ以前に兄弟、それも双子なんだぞ!!こんなこと許されると思っているのか!?」
首筋にキスしてくるシドから必死に体を捩りながらも、バドは叫んだ。
だがシドは、
「たとえ神が許さなくても、私は・・・このあなたへの想いを、もう堪えきれないのです!!好きです兄さん!!ずっとこうしたかった、1つになりたかった・・・・あなたと!!」
「ひっ・・・一つって!?それはいくらなんでもヤバイだろう!!第一、あの(変な)両親だって、実の息子がホモだと知れば、悲しむぞ!それでもいいのか!?」
「父上や母上のことは関係ありません!これは私と兄さんの問題です!」
「関係大ありだっつうの!!!」
バドはシドのキス攻撃をなんとかかわしつつも、このままでは確実に食われると思った。
バドはバリバリのノーマルなのだ。
もちろん男、それも双子の実の弟に食われる訳にはいかない。
だからといって、シドを傷つけることもしたくはなかった。
なんとかこの場を穏便にやり過ごすことはできないものか・・・・?
(・・・くっそ!!俺はどうすればいいんだよ!?ミーメ・・・・)
なぜだろう?
なぜかふと、ミーメに助けを求める自分に気づいたバド。
(あれ?・・・なんで俺、ミーメに・・・・?)
ミーメ・・・考えてみれば、あいつも色々と不幸な生い立ちだったろうに、それでも毅然として、決して人に弱みを見せることはなかった。
いつも物静かで、なにを考えているのか分からない奴だった。
だが、そんなあいつでも、なぜか俺だけには他の奴とは違う気がした。
俺はミーメのことを・・・自分でも気づかぬ内に、意識してたのかもしれない・・・・
ミーメ・・・・
・・・・・って!今、悠長にこんなこと考えてる場合か!?
バドが考え事をしている間に、これ幸いと、シドはバドの上着を捲り上げ、その胸にキスをしていく。
「ばっ・・・バカ!なんてことしてるんだお前は!?」
バドは慌ててシドから逃れようと試みるが、シドに両手をガシッと捕まれ身動き取れない。
そのころ、ミーメは・・・・?
(バド・・・・今ごろはきっと、シドと、そして実の両親と共に、幸せな充実した時間を過ごしていることだろう・・・・君がそれで幸せなら、それは私の幸せでもあるんだ・・・・)
ミーメは竪琴を奏でながらも、なぜか涙が溢れてくるのを止められなかった。
閉じているはずの双眸から、止め処なく涙が溢れては頬を伝わって、そして竪琴の弦に触れ、鈍い音を奏でる。
(バド・・・・やっぱり・・・・君を諦めるなんて、できないよ・・・・・)
ミーメは思い出していた。
あの、アテナの聖闘士との壮絶な死闘の末、神闘士たちはことごとく敗れ去り、そして死んでいった・・・・
ミーメもまた、一輝との戦いで、その命を一度は失った。
それはバドもシドも同じだったろう。
いや、バドは少なくとも死んではいなかったが、それでもシドの亡骸を抱え、1人吹雪の吹き荒れる中を彷徨い歩いていた。
バドはその時、なにを想っていたのだろうか・・・・?
生まれてすぐに、実の両親に捨てられ、1人孤独に生きてきたバド。
だがある日のうさぎ狩りの時のシドとの出逢いにより、バドの運命の歯車が狂っていった。
俺には、兄弟がいたんだと・・・・
それは当時まだ幼かったバドの心に暗い影を落としてしまった。
片や幸せそうに両親と仲睦まじく乗馬を楽しむシド。
片や、飢えや寒さでつらく苦しい狩り生活を強いられているバド。
このあまりの違いはなんなんだ!?
そう、バドは思ったに違いない。
そして、バドの、シドへの憎しみが日に日に蓄積されていった。
それは・・・・私と似ているかもしれない・・・・
ミーメもまた、実の両親を、育ての親であるフォルケルに殺されていたのだ。
バドと似ている。
両親の愛情も知らずに生きてきた。
信じていた父親が、実は両親を殺した仇だった。
それを知らされ、思わず父をその手にかけた・・・・
父の、本当の愛情も知らずに・・・・・
裏切られた・・・・騙されていた・・・・・
もう、誰も信じられなかった。
だから、心を閉ざし、1人、竪琴に耳を傾ける日々。
竪琴を弾いている時だけは、なにもかも忘れることができたから。
父をその手で殺してしまった自分の罪さえも・・・・
そしてバドもまた、両親に捨てられ、育ててくれた親は実の親ではなかった。
さらに、自分そっくりの双子の弟までいて、彼は両親の愛情を一身に浴びてヌクヌクと育っていった。
自分を捨てた両親が憎かったろうに・・・・
それ以上に、実の弟も憎かっただろう・・・・
バドの苦悩は如何ばかりのものだったろうか・・・・?
実の親に捨てられた・・・・弟ばかりが可愛がられていた・・・・許せなかった・・・・
だから、弟を殺す・・・!?
でも、それはできなかった。
(バド・・・・君と私は似ているんだよ・・・・やっぱり・・・・)
私のこの孤独さ、苦しみを分かってくれるのは、やはりバドしかいないんだ。
でも、今バドは、シドと両親と幸せに暮らしていることだろう。
それを思うとやはり、ミーメは彼から身を引こうと、バドのことを諦めようとした。
一方、その頃バドは・・・・?
バドは、側にあった目覚まし時計をシドの頭に振り下ろした。
ガン!
そんなに力を入れていなかったにも関わらず、やけに盛大な音がして、シドはその場に卒倒してしまった。
その隙をついて、その場を逃げるバド。
ようやくトビラの外に出て、ホッと一安心できた。
まさかシドが、いきなり襲ってこようとは・・・
いや、それ以前に、シドがバドの所持品愛好家(いわゆるストーカー)だったことにも多少驚いた。
よもや・・・あの、実の弟、それも双子のシドが、俺のことをそんな風に想っていたなんて・・・・
とにもかくにも、ここにいては危険だと感じたバドはとりあえず家の外に出ることにした。
あたりを確認して、誰もいないことを見計らって、すばやく玄関までダッシュで駆け抜けると、すかさずトビラを開けて外に飛び出した。
それからしばらく走って、ようやく一息つける場所まで逃げてきた。
(・・はあ・・はあ・・・ここまで逃げれば、もう大丈夫だろう・・・・)
あたりを見回してみると、そこはどうやら森の中のようだ。
空には大きな満月が輝いている。
そう、こんな月の輝く夜には、よく彼が竪琴を奏でていることがあった。
その、美しくもどこか物悲しい旋律を聞きながら眠りにつくのがバドの密かな楽しみだった。
今夜もまた、耳を澄ましてみると、確かに聴こえてきた。
このアスガルドの冷たく凍えた夜気さえ、鋭く、そして優しく包み込むような、そんな不思議な旋律だ。
(・・・・ミーメ・・・・・)
先ほど、ふとミーメのことを考えてしまったバドは、無性に彼に逢いたくなっていた。
(ミーメ・・・ミーメに逢いたい・・・・・)
なぜだろう?とにかくミーメのことが気になって仕方ないのだ。
バドはミーメを探して森の中を彷徨った。
それは、まるで獲物を求めて彷徨い歩く飢えた狼のようであり。
また、疲れ果てた獣が、癒しを求めてさ迷い歩く様でもあった。
ほどなくバドは、大きな湖畔の見える場所へと足を踏み入れた。
そこでミーメはよく1人で竪琴を奏でていることがあったのだが・・・・果たして彼はいるのだろうか?
バドが目を凝らして辺りを見てみると・・・・そこには・・・・?
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あとがき
前回はギャグ仕様、そして今回はほんのりシリアス・・・
なんとかシドバド風味から、バドミーメ風味へと無事移行できたようです。よかったよかった^^
これなら広川さんも喜んでくださることでしょう、ね?
そして次回は・・・エロですかあ? |
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