赤き薔薇
〜群島に咲きし麗しの花〜
「赤き薔薇〜群島に咲きし麗しの花〜」
 
 
〜序〜
 
 
少年は追い詰められていた。帝国を追われ、成り行きで反乱勢力である解放軍とやらのリーダーに祀り上げられ、今、父の部下が守る城塞を突破せんとしていた。
だが父の部下―アイン・ジード―は彼の名をよく知っている。そこで同行者の男が提案した。
 
「偽名を名乗ろう。」
 
男は「彼」の父の名を、少年は「彼」の名を名乗った。
 
―――――
 
少年は考えていた。成り行きで同盟軍のリーダーに祀り上げられた彼は今、敵対する国が占拠する町、学園都市としてしられるグリンヒルへ潜入しようとしていた。
だが今や少年の名は広く知れ渡っており、熟考した結果、偽名を名乗る事になった。
少年と義姉はすんなりと決まったが、嘗て「彼」の父の名を名乗った男の相棒の偽名が決まらなかった。そこで少年は「彼」の名を提案した。
 
―――――
 
長い銀髪を持つ美貌の女剣士がいた。彼女は騎士団の団長という身分にありながら、父を探すという名目で密かに国を脱出、正体を隠し、「ナッシュ」と名乗る男と共に父のサーガを追っていた。
 
「本当にこれで良かったのか・・・。私は・・・。」
 
彼女は、戦争中とはいえ、敵対勢力の少年を手違いで斬殺して以来、何かと葛藤する日々が続いていた。そんな悩み、苦しみながら旅を続ける彼女の前に、一人の少女が現れた。名は「ユン」という。生まれた時から未来を予測出来るという特殊な能力を身につける彼女は、女剣士といつか対面する事を、ぼんやりと知っていたという。だが女剣士はその手の話を一切信用していない。だから彼女は名乗った。初めてユンとあったあの日、「彼」の名を。
 
赤月帝国で門の紋章戦争が勃発する150年も前の話。赤月帝国の遥か南、群島諸国の「ミドルポート」に「彼」がいた。胸に「薔薇の胸飾り」をつけ、常に優雅に、かつ繊細に振舞う「彼」はミドルポート領主の子息である。後に伝説となる「彼」はこの日、館の庭園で従者と共に何不自由なく、優雅に午後の午後の一時を楽しんでいた。
 
「彼」の名は「シュトルテハイム・ラインバッハIII世」。この話は、そんな彼の物語のほんの一部である。
 
 
〜第一話 「ミドルポートの跡取り息子」〜
 
 
シュトルテハイム・ラインバッハIII世―長いので以後「ラインバッハ」と呼ぶ事にしよう―は、いつもと変わらぬ優雅な一日を送っていた。彼の父・ラインバッハII世はミドルポートの領主を務めている。この町は元々西にある大陸の「ガイエン公国」に属していたのだが、8年ほど前の戦争で北方の「クールーク皇国」が群島へと攻め入った際、クールーク軍によって占領されてしまった。この町は今も昔も交易で成り立っており、クールークはその利を狙ったのである。いや、それだけではない。この頃から海戦の主流となった新兵器「紋章砲」の存在である。何でもミドルポートのはずれに住んでいる老魔法使いが異世界より魔物を呼び出し、紆余曲折を経て完成したと言われているが、詳細は分かっていない。とにかく、その紋章砲をミドルポートで製造していた。即ち、この「新兵器」の製造元を手に入れることで、今後の戦闘を有利に進めようとクールークは画策したのである。だが、その後ミドルポートの西方に浮かぶガイエン公国の島「ラズリル」に配備された「ガイエン海上騎士団」の奮闘もあり、クールークと群島及びガイエンの間で和議が成立し、クールークはガイエンがミドルポートを手放し、独立を認めることで撤退、こうしてミドルポートは独立し、ラインバッハ家がその領主となった。その関係か、現在もミドルポートはガイエン、ラズリルをはじめとする群島諸国だけではなく、クールークとの交易も盛んである。そう、あの日が訪れるまでは。
 
いつもと変わらぬある日の事。いつもの様に町中を散策してから館に戻ると、何やら客人らしき者が館に入って来た。
 
「おお、これはこれは御客人。ようこそラインバッハ家の館へいらっしゃいました。父に何か御用ですかな?」
 
ラインバッハが訪ねると、三名の客人のうち、リーダー格と思われるスキンヘッドで眼鏡をかけた男が慇懃に答えた。
 
「シュトルテハイム・ラインバッハIII世殿下で御座いますね。私のような者にお声をかけていただけるとはまことに光栄であります。本日はお父上と面会すべく参上した次第であります。そろそろ時間で御座いますので、これにて。」
「ああ、少々お待ち下さい。彼が父の元へ御案内しましょう。ミッキー、お客様を父上の元へご案内しなさい。くれぐれもご無礼のないように。」
 
ラインバッハの従者である、ミッキーと呼ばれた男は客人と共に謁見の間へと入っていった。それにしてもこのミッキーという男、何故かいつも何かを心配そうな顔をしている。ラインバッハは服装こそ奇天烈・・・もとい、独特のセンスを持っているが、あれでなかなか優れた人物なのである。ミッキーもそれは重々承知しているが、それでも心配事が尽きないのか、この表情が変わることはない。
 
ミッキーは客人をラインバッハII世との謁見の間へ案内すると、命じられて部屋を後にした。
 
「ミッキー、御苦労様でした。」
「い、いえ。あたしで出来る事でしたら何なりと。」
 
ラインバッハは再び、午後の優雅な一時へと戻っていった。謁見の間では物々しい会話がなされているとも知らずに。ラインバッハは世間知らずではないが、純粋すぎるゆえ、父の思惑を知らなかった。あの一団がやってくるまでは。だがそれは後々の話。今はまだ話す時ではあるまい。
 
―――――
 
ラインバッハ様、いつも「オラーク海運」をご贔屓いただきまして有難う御座います。
ええ、この度は「会長の御指示」により「例の新商品」を受け取りに参りました。はい、はい、そうです。お代はいつものように、向こうに着きましてからお送り致します。
ええ、そうですね。噂では「六本マスト」の海賊がこの辺りを荒らしまわっているとか。ですからこの度は、ラズリルの海上騎士団に護衛を依頼してあります。まあ、ラズリルもついでに偵察してまいりますがね。
はい、会長はいつも良い商品を提供して下さるミドルポートに何かお礼がしたいとかねがね申しておりました。ですから、件の暁には・・・。まあ詳しい事は上層部が決めることですから何とも申し上げられませんが、御期待して頂いて結構ですよ。そうですね、ええ、ええ。分かりました。ではそのように会長にもお伝えいたします。
いえ、これも全てラインバッハ様のお力添えによるものです。これからも「オラーク海運」そして「クレイ商会」を宜しくお願い致します。
 
―――――
 
「オラーク海運」の使いが来てから然程経たないある雨の日だった。ミドルポートに「ラズリル陥落せり」の報が入って来た。詳細は今のところ不明であるが、オラーク海運、そしてミドルポートが何らかの形でこれに係った事は間違いなかった。また、続報として「海上騎士団長グレン・コット暗殺さる」との報も入って来た。グレンが最も可愛がっていたラズリル領主フィンガーフート家の小間使いがグレンの遺体を見て呆然としていたところを、フィンガーフート家の嫡子が目撃していた、そして嫡子はクールークの接近を知ると、親子共々あっさりと降伏し、嫡子スノウ・フィンガーフートはクールーク南進軍海賊討伐隊に任命されたという。
 
「父上!ラズリルはあっさりとクールークの手に落ちたと聞きます!ああ、私達が援軍として駆けつけていれば、きっと・・・!」
 
ラインバッハは激昂していた。父ラインバッハII世は同じ群島、それも目と鼻の先にあるラズリルに、一切の救援を送らなかったのである。無論これは「オラーク海運」との契約によるものなのだが、ラインバッハはその様な事を知るはずもなく、ただ自分の怒りを父に訴えるしかなかった。だが、ラインバッハII世は「少し頭を冷やして来い」と言ったきり、一切口を開かなかった。ラインバッハは己の無力を悔やみ、同時に父に対する不信感を徐々に募らせていった。
 
「おお、ミッキー!!私はどうすれば良いのか分かりません!!暫く外に出て、雨に打たれながら心を癒してまいります・・・。」
「そ、それはいけません!お坊ちゃま、お風邪を召したらどうなさるのです・・・。」
「しかし!」
 
ラインバッハから大袈裟なリアクションが消えた。彼は心底悩んでいた。暫く考え込んでいた。だが、そんな彼を救った者が館にいた。いつも彼の為に音楽を奏で、彼の心を癒し続けてきたエチエンヌである。エチエンヌはエチエンヌなりに、ラインバッハの荒んでしまった心を癒そうと、無心に音色を奏で続けた。そんな彼の心情を知ってか知らずか、ラインバッハは次第に落ち着きを取り戻し、数日後にはいつもの華麗な彼に戻っていた。
 
―――――
 
それからどれ程の時が経ったのだろうか。クールーク軍は快進撃を続け、ラズリルを抑えると同時に精鋭部隊の第一艦隊、第二艦隊が群島で最も有力な勢力・オベル王国を陥落させ、西方のモルド島、東方のドーナッツ島を占拠、群島の東半分をほぼ制圧した。一方のラズリル占領軍はその後動こうとはせず、すぐにミドルポートを攻めるものと思われていたが、待てども待てどもクールーク艦隊はやって来なかった。これにはスノウの指揮能力、スノウの父ヴィンセント・フィンガーフート伯の統治能力も係っていた。早い話が、彼らの能力では無理難題とも言える任務だったのである。フィンガーフート伯は元領主ゆえに降伏しても民はついて来ると考えていたが、そうではなかった。降伏直後から民の激しい反発を食らい、連日フィンガーフート邸の前ではデモが行われている。更に質の悪い事に、クールーク軍はデモを一切止めようとせず、中には笑いながら民を煽動する兵士まで現れた。また、スノウも「臨機応変」という戦場での鉄則を忘れ、「何の命令もないから部隊を動かさない」という態度でのぞみ、兵士達の失笑を買った。そんなフィンガーフート親子であったが、その後の海賊との戦闘でスノウは嘗て団長殺しの罪に問われた元フィンガーフート家小間使い率いる群島連合軍に敗れ、島流しの刑に処せられ、フィンガーフート伯も度重なる暴動によりクールーク本国へ亡命した。こうしてラズリル占領軍は遅々として南下が進まぬまま、群島連合軍の反撃を迎えることになった。
 
そして「その時」はやって来た。事の発端は「彼ら」がラインバッハII世のペット「デイジーちゃん」を殺害した事に始まる。「ペット」といっても犬や猫の類ではない。遠くから見るとまるで「動く島」のように見える「巨大貝」、即ちモンスターである。ラインバッハII世は、そんな物騒な生物をミドルポート沖で飼っていたのである。「デイジーちゃん」はモンスターゆえ、少々目を離すと交易の為に訪れた商船や漁船を襲う事故もしばしば起こっている。世話を任されているミッキーはいつもその事後処理に追われていたが、ラインバッハはそれを心苦しく思っていた。元々「デイジーちゃん」を良く思っていなかったラインバッハは、時折ミッキーに『ああ、あの醜い生物を倒す力が私にあれば・・・。」と嘆いていただけに、今回「デイジーちゃん」を倒した事に、感激もひとしおだった。だがミッキーは違う。ラインバッハII世お気に入りのペットが殺されてしまったとなると、ミッキーの処遇は決まったようなものだった。「解雇」である。ミッキーは「デイジーちゃん」を倒して港に船を停泊させた『彼ら』にいつも以上に怯えた表情を見せた。
 
「ああ!何て事を・・・。デイジーちゃんが・・・。デイジーちゃんが・・・。」
 
当然「彼ら」の頭上には「?」マークが並んだ。
 
「あ、あの・・・。「デイジーちゃん」とは何でしょうか?」
 
ラズリルを追われたあの少年がミッキーに尋ねた。
 
「貴方達が殺してしまったあの生物ですよ!あれは城主様のペットなのですよ!ああ、もう御終いです!あたしはもうクビです!」
 
ミッキーはただ嘆くばかりだった。そんな彼を見て流石に不憫に思ったのか、リーダー格の少年は困惑した表情を浮かべた。
 
「聞きましたよ、ミッキー。」
 
すると軽やかな音楽と共にラインバッハが港に現れた。ミッキーと少年の会話を途中から聞いていた彼は、まず「デイジーちゃん」を倒した礼を、いつものように常人から見るとオーバーなリアクションで述べた。
 
「おや?貴方は確か・・・。」
 
ラインバッハが顔を上げると、見慣れた顔があった。確か、「オラーク海運」という海運会社の人間だっただろうか。ラインバッハは記憶の引き出しを開けた。
 
「そうそう、確かオラーク海運の・・・。」
 
スキンヘッドで眼鏡の男はまた慇懃に挨拶した。
 
「お久しぶりですラインバッハIII世殿下。先日は「オラーク海運」として父君との商談に参りました、ラマダです。先日は何かとお世話になりました。」
「いえ。私達が少しでもお力になれたのでしたら、それはとても喜ばしいことですよ。ラマダ殿。」
 
ラマダはラインバッハに気付かれぬよう、ほんの一瞬だが表情を曇らせた。そして何事もなかったかのように話を続けた。
 
「実は本日は「群島諸国連合軍」として参上しました。そこでまた、父君との謁見を所望したく・・・。」
「おお、噂はかねがね聞いておりますよ。そうですよね、ミッキー。」
「は、はい!」
「うむ。それで、父との面会を所望されるのですね。貴方達はあの醜い生物を倒してくれた恩人です。私が父に伝えておきましょう。それまで少々お待ち下さい。場所は・・・そうですね、「うるわしの巻き毛亭」がいいでしょう。言伝はミッキー、任せましたよ。」
 
―――――
 
ラマダは再び館の中にいた。但し、今回は「オラーク海運」ではなく「群島諸国連合軍」として。だがラマダは事情に詳しいだけに、今回の目的である、群島諸国結束の為の同盟は難しいものと考えていた。恐らく軍師エレノア・シルバーバーグも同じ考えだろう。だが味方がまだいない状況下では、ほかに当てもなかった。彼らは僅かな望みに懸けていた。
ラマダが見たラインバッハII世は、以前「オラーク海運」の人間として見た時の彼とは別人だった。姿格好は同じでも、明らかに面倒くさそうな表情をしていた。
 
「私がミドルポート領主シュトルテハイム・ラインバッハII世です。」
 
言い方もぶっきら棒だった。やはりクールークとのパイプが太いだけに、簡単に群島に靡くはずがなかった。
それでもリーダーの少年は誠意を訴えるかのように答えた。
 
「群島諸国連合軍リーダーです。」
「愚息から要件は聞いております。」
 
ラマダはまた一瞬眼鏡の奥の瞳に闇を宿したが、悟られぬようリーダーに続いた。
 
「ラインバッハ様、「オラーク海運」のラマダです。先日は大変お世話になりました。」
「・・・、ああ、それについては後日ゆっくりと。」
 
ラインバッハII世は「オラーク海運」との関わりを悟られたくないかのように話した。
 
「単刀直入に言えば、我々と同盟を結びたいと?」
「はい。」
 
連合軍リーダーが頷くと、渋い表情をしていたラインバッハII世の評定が更に渋くなった。
 
「しかし・・・。」
「父上、何を迷っているのです。クールークはイルヤ島を破壊する事で住民を虐殺した事を、父上も御存知でしょう。クールークの非を全世界に鳴らし、力をあわせて群島の平和を守ること、素晴らしい事ではありませんか。」
 
それまで黙っていたラインバッハが口を開いた。事情を知らない彼は、優柔不断な父が決断を渋っていると見えたのである。それを聞いたラマダは、ラインバッハの誤解を解く為、彼には気の毒かもしれないと思いつつ、彼の正義感を煽る様に真実を話すことにした。
 
「殿下、ミドルポートとクールークは直接付き合っている訳ではありません。そこで仲介役として出てくるのが「オラーク海運」、言い換えれば「クレイ商会」です。」
 
「クレイ商会」という言葉を聞いた途端、ラインバッハの表情が変わった。
 
「父上!幾らミドルポートの繁栄の為とはいえ、あの悪名高いクレイ商会とも交易を行っていたのですか!おお、嘆かわしい!」
「息子よ。世間には奇麗事では済まされぬ事がある。今回のが当にそれだ。」
 
「クレイ商会」とは、グレアム・クレイという男を会長とする会社であるが、実際は武装集団を持ち、金儲けの為ならばどんな冷酷な手段も厭わない事から、「死の商人」と呼ばれ恐れられている。近年はクールークとの繋がりを持ち、人魚を捕えて悪趣味な金持ちに売り捌く事で利益を上げている。
その悪名高い「死の商人」の取引先の一つがまさか自分の父だとは、ラインバッハは夢にも思っていなかった。
 
「さて御客人、そういう訳で、残念ながら手を組むわけにはゆかぬ。だが、そちらがミドルポートに上陸することを拒みはしないし、常識の範囲内であれば何をしても構わない。但し、こちらがクールークと何をしていようと、一切口を挟まないで頂きたい。それで良ければ今後もこの地を踏む事を許すが、如何かな。」
 
非常識な取引を行っている者に「常識の範囲内」と言われたことを、連合軍リーダーは滑稽に思った。何が「そういう訳」なのかは分からないが、ミドルポートは群島にとっても良き交易相手であり、下手に拒むわけにもいかず、リーダーは渋々条件を飲んだ。
 
―――――
 
連合軍が港へ引き上げると、ラインバッハ、ミッキー、エチエンヌが後を追ってきた。ラインバッハは父に幻滅した為、ミッキーはラインバッハの取次ぎも空しく、「デイジーちゃん」殺害の件で解雇され、エチエンヌはラインバッハを慕ってついてきたのであった。
 
「おお、皆様、この度は父が御無礼をはたらき、真に申し訳ありませんでした。このラインバッハIII世、父に代わってお詫び申し上げます。」
 
エチエンヌの哀しげなメロディにあわせるように、ラインバッハは頭を下げた。
 
「ところでラマダ殿。お一つお聞きしたいのですが・・・。」
 
エチエンヌは一時演奏をストップした。
 
「クレイ商会と我がミドルポートについて、もう少し詳しく教えていただけませんか。このままでは私は、生涯罪の意識に苛まれ、民を想い善政を敷く事が出来ません。」
 
ラマダは先程煽るように説明したことを少し後悔しつつ、「覚悟してお聞き下さい」と断った後に説明を続けた。
 
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先日我々がミドルポートより購入したものは、イルヤ島を破壊したあの兵器です。ええ、残念ながら事実です。私もその時は会長の真の目的を知りませんでしたので、ただ言われるがままに動いていました。
ラズリルの海上騎士団に護衛を頼んだのですが、途中で海賊ブランドという連中に襲われましてね。ええ、それで我々は離れた場所から見ていたので詳細は分かりませんでしたが、後でリノ王より聞いたところ、どうもそれは「罰の紋章」の力ではないかと。今何処にあるかですか?それはリーダーの左手に宿っています。まあその話は今はおいておきまして、その後護衛艦無しでどうにかイルヤ島を経由してクールーク南進の拠点であるエルイール要塞へ到達しました。ええ、そうですね。最終的な目標はそれになるでしょう。しかしクレイ商会は新たな兵器をミドルポートから輸入しようとしています。そうですね、それを阻止せねばなりません。ですが、ラインバッハII世閣下には残念ながら通じなかったようです。
 
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「おお、聞けば聞くほど自分の無知を恥じねばなりません!」
 
ラインバッハはまるで自らに責任があるかのように、天を仰いだ。
 
「父がそこまで卑劣だったとは・・・。私は父を軽蔑する!」
「殿下、貴方様がそこまで責任を感じる必要はありません。」
「しかし!今私が裕福に生活出来るのも全てクレイ商会との交易によるものだと考えると・・・おお、おぞましい!」
「殿下・・・。」
 
突如エチエンヌが演奏を再会した。それまでとは違う、行進曲のような勇ましい音色だった。
 
「リーダー殿!どうか私も父に代わり、連合軍の末席に加えていただきたい!出来ればこのミッキーとエチエンヌもお願い致します。私は自らの勝手な行動で、彼らに不憫な思いをさせてしまいました。どうかお願い致します。」
 
リーダーは彼の好意を無駄にする事は出来なかった。彼が純粋ゆえに父の非道を知らず、今当にミドルポートの為に立ち上がろうとしていたからである。リーダーは三名の同盟軍加入を許諾した。ラインバッハは心底喜び、ミッキーとエチエンヌも安堵の表情を浮かべた。但しミッキーは相変わらず心配そうな顔をしていたが。
 
胸に飾られた薔薇の胸飾りがいつもより輝いて見えた。ミドルポートの天気は快晴、太陽に胸飾りが照らされたこともあるかもしれないが、それ以上に何か大きな要因があったに違いない。
シュトルテハイム・ラインバッハIII世の物語は今、その歯車をゆっくりと回し始めた。
 
 
 
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