2主人公vsジョウイ
 
「―――――じゃあ、どうして君は・・・。」
「運命だった・・・。それが答えだと言ったはずだよ。今の僕はハイランド皇王、今の君は新同盟軍リーダー・・・。
歯車が噛み合う筈も無い。当然の結末さ。」
 
二人の少年は、運命を共にした場所で対峙していた。
ハイランドのルカ・ブライトがユニコーン少年隊を同盟軍の奇襲に見せかけて壊滅させてから一年近くが経過していた。
始めは同盟軍に不利だった戦況も、新同盟軍の結成、各都市との連係、トラン共和国との同盟によって次第に逆転し、
ハイランド皇王となったルカ、離反したマチルダ騎士団のゴルドーを討ち、遂にハイランドの皇都ルルノイエを落とし、勝利を手に入れた。
だが、同盟軍リーダーにとっては真の勝利ではなかった。親友であり敵の大将であるジョウイ・ブライトの存在である。
 
「この紋章を宿してから、君と僕が対立する事は目に見えていたんだ。レックナートって女性も言ってたろ?」
「・・・だから、だから何だって言うんだ!僕達姉弟と君の友情はそんなものなのか!?紋章如きで脆くも崩れ去る物なのか!!!」
「違う!僕は君達を唯一の親友だと今でも思ってる!だが、そんな事で解決出来る問題じゃないんだ!」
「ジョウイ!」
「・・・御喋りは終わりだ、新同盟軍リーダー!ハイランドを滅ぼし新たな秩序を得たければ、最後にこの僕を倒してみろ!!!」
「馬鹿を言うな!君を倒す事なんて出来やしない!」
「いくぞ!」
 
 
 
―――一月ほど前の事、グリンヒル奪還の際に同盟軍の客将として招かれていた、トラン共和国建国の父マクドールは新同盟軍リーダーにこう言った事があった。
 
「親友との対立ってのは辛いだろうね。だけどね、もっと辛い事がある。自らの手で親友を葬る事さ。
僕にはテッドと言う親友がいた。君も知ってると思うけど、僕は赤月帝国の貴族なんだ。一般市民と付き合うこともままならない、窮屈な身分さ。
まあうちは父が寛大な人間だったから、市民階級の知り合いも結構いたけどね。それでも親友と呼べる人間はいなかった・・・。
そんな時に父が一人の少年を連れてきたんだ。名をテッドと言った。テッド不気味なほど大人しくてね、何でなのか理由を尋ねた事もあったけど、絶対に答えようとしなかった。
だけど、ある時テッドはふと言ったんだ。「自分は何度も身を守る為に戦ってきた。」って。僕は敢えてその先を聞かなかった。聞いていたら、きっと・・・。
でも聞かなくて良かったよ。その後は次第にテッドと打ち解けられるようになった。僕にとってもあいつにとっても、初めての『親友』が出来たんだ。嬉しかった。しかし現実は甘くなかった。テッドの宿してる紋章、そいつが災いを引き起こした。僕は反逆者として都を追われ、テッドは帝国に捕えられた。その時にテッドから継承したもの、それが右手のこいつさ。初代リーダーのオデッサさん、グレミオ、父の魂を吸ったこいつが最後に選んだ人間・・・それがテッドだった。
テッドは自分で魂を吸わせたのさ。もう後悔は無い、紋章を奪われるなって言って。僕は彼の要求を呑んだ。泣く泣くね。人前で涙を見せるなんて事は普段はしないんだけど、あの時は・・・。
テッドは何かから解放されたように微笑んで右手に吸収されていった。・・・最終的に決断を下したのはこの僕だ。僕は父と親友をこの手で葬った。しかしリーダーとして毅然としなくては軍が纏まらない。感情を表に出すわけにはいかなかったのさ。
君達だってそうだろ?君にとって皇王ジョウイは親友であり家族であったはずだ。頑固だった父や300年も苦しんできたテッドとジョウイは違う。彼にはまだ救いようがある。彼を救うか殺すか、それを決めるのは彼じゃない。君自身なんだ。リーダーの職を全うし終えた後は一個人に戻る。シュウ軍師が何と言おうが、君は君だ。このままじゃ傀儡のまま一生を過ごす事になる。それでいいのか?良くないだろ。最終的な決断は全て君に委ねられる。覚悟は、出来てるね?」
 
 
 
二人の武器が交わった。静寂の中、二人の呼吸、足音だけが響き渡った。
 
「ジョウイ・・・、本気で僕を討つ気か?」
「無駄な戦いを終わらせる為だ。他意はない。」
「これこそが無駄な戦いだと気付かないか?」
「これは有益だ。何故なら僕はここで死ぬからだ。英雄たる君は僕を討ち、国を滅ぼした悪王たる僕は君によって葬られる。これこそ秩序なのさ。」
 
ジョウイは磨かれた天星烈棍を振りかざした。新同盟軍リーダーはそれを受け止めもせず、頭からまともに受けた。彼の額から微かに血が流れた。
 
「・・・何故だ!何故防御もしない!君は死ぬべきじゃない!死ぬのは僕だ!」
「ジョウイ・・・勘違い・・・しないでよ・・・。誰が君を討つなんて言った・・・?ナナミの願いを無駄にする訳にはいかないんだ・・・。」
 
ジョウイは何も言わず、天星烈棍を突き出した。リーダーは天命牙双で防ぐが、反撃もせず、武器を構えるだけだった。
夕暮れの中、二人の少年はずっと互いの目を見て対峙するだけだった。
どちらの体力が早く尽きるかは見るまでもなかったが、有利なはずのジョウイは事を焦っていた。
 
「どうして・・・。」
「争いなんて、馬鹿馬鹿しい事なんだよ・・・。ある人が言ってたんだ。『親友を葬る事が一番辛いことだ』って。」
「・・・。出来れば僕だって君を討ちたくない。だけど、それは許されない・・・。」
「ジョウイ・・・もう止めようよ。君はもう皇王じゃない。僕だってもう、デュナンの君主じゃないんだ・・・。」
「・・・。」
 
ジョウイは静かに天星烈棍を置き、俯いた。
 
「君は・・・強いね・・・。うっ・・・。」
 
俯いた途端、ジョウイは苦しみだし、大量に吐血した。
親友たるリーダーは武器を投げ捨て、ジョウイの元に駆け寄った。
 
「ジョウイ!」
「・・・紋章の力を使いすぎた・・・。もうこの体はもたない・・・。右手を・・・。」
 
リーダーは何度も拒んだ。ジョウイにとってはそれが辛いのかもしれない、分かっていても拒み続けた。
その間もジョウイは血を吐いた。段々ジョウイの顔が青白くなっていった。握っていた手も冷たくなった。リーダーは耐え切れなかった。拒んでも拒んでもしつこく願うジョウイの姿を見て、己の運命を呪った。
そして遂に、彼は親友の最期の願いを受け入れた。右手の輝く盾の紋章と黒き刃の紋章が一つになり、始まりの紋章となってリーダーの右手に再び宿った。
 
「これで・・・いいんだ・・・。もう・・・お別れ、だね・・・。
今まで・・・ありが・・・とう・・・。さよなら・・・親友・・・。」
 
運命に翻弄され続け、僅かな幸せをも掴む事を許されなかった亜麻色の長髪を持つ美少年は、
親友が選んだ道と、再び同じ場所に出会うであろう道を選ぶ事無く、17年という短い生涯を終えた。
 
「ジョウイ!!!ジョウイーーーーーー!!!!!!」
 
残された少年の悲痛な叫びだけが、天山の峠、そしてキャロの町にこだました。
運命とは時として残酷である。10代中盤の幼き少年は戦いによって姉を失い、そして今、親友を失った。
もはや家族と呼べる者はいなかった。
彼は自害しようとも考えた。だが、親友がいない今、戻るべき場所は一箇所しかない。ノースウィンドゥである。彼は峠を下った後、「またたきの手鏡」を使って本拠地に戻った。
新国家建設の準備の為か、城内は忙しそうだった。既に国に帰った者もいた。解放軍リーダーもその一人である。
 
「・・・結局、君は僕と同じ道を辿るんだね。これも紋章の呪いか・・・。グレミオ、酷い話だよね・・・。お前が生きてたら、もしかしたらこんな暗い気持ちにはならなかったのかもね・・・。」
 
二つに分かれた不完全な状態で宿すと、親友と戦う事になる紋章。そして今、一つになったそれを宿したデュナン国の若き元首は、ミューズ市の市門で夕陽を眺めながら、姉と幼女と共に親友を待ったあの日の事を思い出していた。
彼の目に僅かに涙が浮かんでいた。
この世に存在する真の27の紋章。強大な力と引き換えに、宿主に対して絶望的な呪いを齎す災いの元・・・。
 
 
あとがき

幻水Uの名物?、親友対決です。
2主人公とジョウイ、親友同士の2人が袂を分かち、後に敵として対峙しなければならないシーン。
涙なくしては戦えませんでした(涙
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