メル&ブランキーの珍道中C
 
さて、群島に飛ばされた歴代シリーズ登場キャラ、残念ながら主人公勢揃いとはいかなかったものの、メンバーの中にはシリーズ一の人気を誇り、神聖化されている彼の姿もあった。
ナッシュ以外は相変わらずぐったりしている神官将ササライを完全に無視し、話を進めていた。
 
「・・・で、ここは何処なのさ。」
 
アップルジュース(果汁100%)というお子ちゃまな飲み物を頼んだマクドール家当主の少年は、半ば不機嫌そうに艦長の少年に尋ねた。
 
「あ、その・・・そんな顔されなくても・・・。」
 
艦長の少年はいつものように無表情に言った。
お前には言われたくない。皆そう思ったのは言うまでも無い。
 
「・・・、悪かったね。今僕はもの凄く不機嫌なのさ。どこかの誰かのお陰でね。」
 
彼の脳裏には同盟軍リーダーの姉ナナミの姿が浮かび上がったのだが、メルは自分の事だと思い一瞬びくっとした。
 
「あの・・・それは僕が原因ですか?」
「いや、艦長さんじゃないよ。ね、ジョウイ。」
「・・・は、はい。心中、お察しします・・・。」
「よく弟は耐えたね。」
「あれは免疫が出来てますから・・・。」
「なるほど。」
 
ブランキーは下手な事が言えなかった。今何か言ったらソウルイーター、黒き刃の紋章、罰の紋章という三つの攻撃タイプの真の紋章の餌食になる事は目に見えていたからである。
もしこの狭い部屋の中で「裁き」、「貪欲なる友」、「永遠なる許し」を使われたら・・・。
 
「・・・で、ここは何処なのさ。」
 
暫く重い空気が流れた後、マクドール少年は同じ質問をした。
 
「あ、はい・・・。えっと、大陸の南にある群島です。」
「・・・群島?トランから豪い離れてるじゃないか。」
「トラン・・・って何処ですか?」
「は?」
「いえ、ですから、トランって何処にあるのでしょうか。」
 
ここで赤月の名を出されると厄介な事になりかねない。群島と赤月は敵対しているわけではないが、軍師は赤月帝国のシルバーバーグ家出身、未来の事を知られるわけにはいかなかった。
メルは仕方なく口を開き、事情を現代人一同に耳打ちした。
 
「・・・というわけでして・・・。」
「ふ〜ん、なるほどね。しかしよりによって君の所に飛ばされるとは、偶然というより必然的なものを感じるね。」
「でもさあ、そんな事本当に有り得るわけ?」
「有り得るからこの場にいるんだろ。あんまり変な事言うとカスミに笑われるぞ。」
「か、関係ないだろ!!!」
 
医務室はいつしか騒がしくなっていた。どつき漫才も始まっていた。そんな状況に、温室育ちの神官将(32)と元貴族(37)は溜息をついた。
 
「・・・ナッシュ、どうやったら彼らと離れられる?」
「う・・・、申し訳ありませんササライ様。私も何かと画策しているのですが・・・。」
「あのビッキーって娘がいないと難しいか、やっぱり。」
「はい。そして彼女にクシャミをさせねばなりません。」
「クシャミ?そんなもの、ちょっと細工をすれば・・・。」
「今までのビッキーなら、ハレックやコロクでも出来たのですが、この船にいるビッキーには隙がありません。まずは気を許させる事から始めないと・・・。」
「なら頼むよナッシュ。何なら彼らを利用してもいい。どうせ離れると分かってるならとことん利用しよう。」
「承知しました。」
 
などと言っているうちに、コメディ集団・・・ではなく、トラン・デュナン組も意見が纏まっていた。
やはりこちらもビッキーを利用する手以外は思いつかず、利害が一致したナッシュらとともに、元の時代に戻るべく動き出した。
危険な賭けだった。絶対に元の時代に戻れるという保証は無い。仮に元の時代に戻ったとしても、トランやデュナン、ハルモニアとは関係ない場所に飛ばされるかもしれなかった。
 
「あ、ちょっと待って。」
 
一同が動き出そうとした時、不意にメルが言い放った。
 
「この船のビッキーちゃん、ちょっと変わってるよね。」
「・・・言うタイミング間違ってる。」
「いえ、それは分かってるんですけど・・・。」
「げへへへへ!!久々に俺様の出番だな!!!」
「ちょっと、ブランキー!」
「いいか、あのビッキーとかいう娘と面識があるのは俺達だけだ。つまり、元の時代に戻りたければ、俺様の言う事をしっかり聞いてもらう。」
 
一同が一瞬硬直した。
 
「はぁ?」
「何言ってるの?」
「・・・馬鹿?」
「サスケ、口が過ぎるぞ。」
「ぼ、坊ちゃん・・・。」
 
マクドール少年は磨き上げた天牙棍を突き出した。
 
「先生、問題です。ソウルイーターの餌食になるのと、天牙棍の餌食になるの、どっちが苦しいと思いますか?」
「げへへへ!!嘘はついてないぞ嘘は!!」
「聞こえません。選んで下さい。」
「だから!!!」
 
笑みを浮かべていた少年の顔が一気に変わった。従者も見た事も無いような、恐ろしい形相になっていた。
 
「選べ。」
 
声変わりしているのかしていないのか分からないはずの彼の声が、一気に低くなっていた。
やたらドスの利いたものになっていた。
 
「ほ、本当にビッキーちゃんとはお会いしてるんです!!」
「・・・。」
 
右手が黒く光った。
 
「待って!本当に!!!」
「ジョウイ、準備。」
「え?は、はい・・・。黒き刃の紋章よ・・・。」
「ストーーーーーーーーップ!!!」
 
三人の間に入ったのは艦長の少年だった。無表情の彼は、無表情のまま止めに入り、無表情のまま言った。
 
「いい加減にして下さい!貴方達の間に何があったか知りませんけど、これ以上暴れるなら船から降ろしますよ!!!」
 
口では怒っているのだが、表情が変わっていないため聊か迫力に欠けていた。
しかし、今船から降ろされては元の時代に戻る当てが無くなるのもまた事実。二人は仕方なく手を下ろした。
 
「・・・仕方ない、今回は彼の顔を立ててやる。」
「た、助かったぁ・・・。」
「げへへへ・・・げへへへ・・・。」
 
メルの右手は心なしか震えているように見えた。
 
「と、とにかく・・・私がビッキーちゃんを連れてきますから・・・。」
 
―――30分後。
 
「遅かったですね。どうしました?」
「え、ええ・・・道に迷っちゃって・・・。」
 
メルがビッキーを連れてきた時、何故か艦長を含め、医務室でグレミオ特製シチューを食べていた。
 
「これ美味しいですね。うちのレストランのメニューに加えたいくらいです。」
「後でレシピを伝授しましょうか。」
「ノースウィンドゥのレストランで食べて以来だな・・・。」
「うむ。」
「毎日食べさせられてる身にもなってね・・・。飽きないけど、たまには違う物が食べたい・・・。」
「坊ちゃん、贅沢言っちゃ駄目ですよ。」
「うう・・・。僕が料理出来ないからって・・・。」
「・・・ナッシュ。」
「はい?」
「彼をハルモニアに連れて行くことは・・・出来ないよね。」
「それは流石に・・・。しかし国内にもこれほどの腕を持つシェフはそうそういないと存じます。確かに是非お越し頂きたいものです。」
「うん、だよね。」
 
群島は今日も平和だった。平和すぎると言っても過言ではないかもしれない。
嵐の前の静けさか、それとも・・・。
群島、トラン、ロッカク、ハルモニアの命運は、16歳の少女のクシャミにかかっていた。
 
「グレミオ、お代わり。」
「俺も俺も。」
「はいはい、ちょっと待って下さいね。」
 
・・・平和なのはいい事である。メルはつくづく感じた。
 
 
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