メル&ブランキーの珍道中A

二人が辿り着いたのは大きな街だった。活気に溢れ、人々の往来が激しい町。それはまるで、ビネ・デル・ゼクセやカレリアのような・・・。
だが二人にとっては見たことの無い未知の世界であった。無論知り合いなどいるはずも無く、二人は街中をひたすら歩き回った。
街には一通り揃っている。無いといえば交易所くらいか。

「ここ・・・何処?」
「さぁ・・・。」
「困ったね・・・。・・・あ、あの人に聞いてみよ。」

メルは赤い鉢巻を撒いた黒服の少年を指差した。少年は年齢に似合わず柔らかそうな長い髪を靡かせていた。周りに護衛の兵士が数名いた。それなりの身分なのであろう。

「すみません、ちょっとお聞きしたいんですが・・・。」

少年は笑顔一つ見せずに振り返った。

「何でしょうか。」

口調は非常に丁寧なのだが、表情と一致していなかった。

「あ、あの・・・ここ、何処でしょうか。」
「ガイエン公国ラズリル村ですが・・・。」
「ガイエン・・・公国?」
「ええ。もしかして、大陸の方から来たんですか?」
「あ、はい・・・。ゼクセンの方から。」
「・・・ゼクセン?誰か知ってるか?」

兵士達は皆首を振った。

「ラズリルって・・・どの辺になるんですか・・・?」
「えっと・・・、地図あった方がいいかな?」

少年は地図を広げ、ラズリルの場所を指差した。
大陸北部には何故か滅亡したはずの赤月帝国が存在し、その南には「クールーク皇国」という聞いたことの無い国があった。

「ここ、群島?」
「そうですよ。」
「ゲヘヘヘヘ、何で赤月帝国があるんだ?18年前にトラン共和国になったはずだろ。」
「トラン共和国?何ですかそれ。」
「え?ええええ!?」
「どうも話がかみ合いませんね・・・。」

話が合うはずがなかった。ここは解放戦争勃発の150年前の世界。まだ群島諸国が一つに纏まる前だった。トランは当然まだ赤月だし、デュナンはまだ都市同盟、ハイランドも存在する。ゼクセンはグラスランドの一部で、ハルモニアは当時から強大な国だった。

「ゲヘヘヘヘ、メル、どうするよ。」
「どうするって、どうしようもないじゃない・・・。ゼクセンはまだないし、グラスランドにも戻れそうにないし・・・。」
「じゃあ、僕らの船に来るかい?」

少年は全く表情を変えずに言った。これまで彼は眉一つ動かしていない。笑っているのか怒っているのか、メルには全然分からなかった。
今回は言い方からして善意があるのだろうが、無表情のまま言われると不安になる。が、この先どうなるか分からない。メルは一時的に世話になることに決めた。
さて、船内に入ってみると、中はやけに広かった。まるで街が船になったような感じである。無論住宅地があったりするわけではないが、この船での航海というのも悪くない、メルはそう思っていた。

「ところでメル、あのガキ、誰だ?」
「知らない・・・。誰だろう?」

150年前の世界に知り合いがいるはずが無かった。当然知るはずも無い。彼こそがこの船の船長であり、群島の敵であるクールークと戦っている軍のリーダーである通称「4様」である。彼は群島諸国東部にある「オベル王国」の国王リノ・エン・クルデスと幼い頃に生き別れた王子ではないかとの説も出ているが、真偽の程は定かではない。
メルには情報が無かった。情報収集といえば定番なのは酒場である。メルは酒場へ向かった。そこで彼女は、驚くべき光景を目にする。

「全く、ここが何処だか分からないし、ハルモニアへは帰れないし・・・。馬鹿ルックが。何が『君が望めるものはただ二つ。のたれ死にか紋章を渡して死ぬかだ。』だ。」

愚痴を言いながら酒をちびちび飲んでいる青い服を着た銀髪の少年。メルは見覚えがあった。

「危なくなって土の紋章を使ったら変な所にワープするし・・・。僕は転移魔法なんか使えないのに・・・。」

少年は少量で、だが何杯も飲んでいた。酒場の女将ルイーズが何とか宥めようとするが・・・。

「兄さん、若いんだから飲みすぎない方がいいよ。酔いつぶれたら折角のいい男が台無しだ。」
「・・・僕はもう32です。それに、別にこの顔を誇りに思った事はありません・・・。」
「嘘はいけないね。」
「嘘?まさか。これでもハルモニアで神官将をやってるんだ。嘘なんかつかないよ。」
「ふうん、まあよく分からないけど、何か事情があるんだね。」
「そう。」

銀髪で青い服を着たハルモニアの神官将を務める美少年といえば、一人しかいない。

「ササライさん・・・何やってるんですか。」

メルは思わず声を掛けていた。

「メル・・・だっけ?五行の紋章戦争以来だね。」
「そうですね。でも・・・ルックならもう死んだはず・・・。」
「ストーリーの都合上再登場、だとさ。」
「は、はぁ・・・。」
「で、ここ、何処か分かる?」
「解放戦争の150年前の群島諸国だそうです・・・。この辺りはガイエン公国ラズリル村沖だとかで・・・。」
「ふうん・・・群島か。確か170年前っていうと、クールークが赤月と戦う為に群島への南征を始めたんだったかな。その時に群島を率いていた少年が宿していた『罰の紋章』を奪い、ハルモニアに献上して援助を得ようとしていたと以前ヒクサク様に聞いた。まあハイランドみたいに守護の関係になろうとしたのかな。・・・それはいいや。とにかく、どうやったら元の時代に戻れるか分かるかい?」
「ビッキーちゃんのテレポートに頼るしか・・・。」
「ビッキー・・・?ああ、あの転移系魔法の使い手か。彼女なら出来そうだな。」

二人はとにかく元の時代に戻ろうと、知恵を絞って策を練った。
ところで、肝心のビッキーがこの場にはいない。それは何故か。理由は一つ。何時の間にかテレポートしていた。次に4様とビッキーが出会うのは間も無くであるが、さてどうなる事やら。

メル&ブランキー+ササライの、痛快、滑稽な珍道中が始まった。

「・・・珍道中か。真なる土の紋章よ・・・。」
「ゲヘヘヘヘ!無駄な抵抗だな!」
「ブランキー!!!そ、それはともかくササライさん!落ち着いて!」

ササライの右手が眩く光っていた事を知る人物は、メル達以外にはいなかった・・・。


ササライの顔が次第に赤くなっていった。相当な量の酒が入っているようだ。だが本人は全く酔っている様子はない。酒に強いのか鈍感なのか。

「・・・で、ササライさん。歩けます?」
「この麗しの神官将に歩けらと〜?何考えへるんら〜。」

しっかり酔っていた。自分で「麗しの神官将」と言う辺り、かなりヤバイ事になっている。

「大体何で僕が美青年攻撃のメンバーに入ってないんら〜?」
「美青年って言うより美少年だからだろ、酔っ払い神官将。」
「うるへ〜。僕は・・・僕・・・う・・・。」

酔った麗しの神官将はそのまま倒れた。

「ブランキーはササライを倒した。経験地5を手に入れた。ブランキーはレベルが上がった。」
「ブランキー!全く、某ゲームじゃないんだから・・・。」

(ここからは「エークの冒険」風でお楽しみ下さい)

笹来(ササライ)が倒れたらメルは腹黒人形を使って何か企んだのだ!だがそこにこの船の艦長がやって来たのだ!艦長は「どうしたんだ、大丈夫か!」と言ったらメルは「大変なの!笹来さんが倒れたの!」と言ったのだ!そしたら艦長4様は「それは大変だ!すぐに医務室に運ばなきゃ!」と言って人を呼んで笹来を医務室に運んだのだ!危うし、笹来!

(以上)

「・・・無理して飲みすぎですよ。」
「うぅ・・・。」

ササライは口元に手を当てていた。クリスタルバレーで弟ルックに自分達のクローンである時の姿を見せられた時のように。

(ここからは「エークの冒険」ジェット・ザ・ヘルファイヤー版風でお楽しみ下さい)

メルは慄いた!血走るササライの眼!右手に宿る真なる土の紋章の不気味な輝き!己の暴走を食い止める事が出来なかった美少年の表情!

「駄目じゃ!儂は飲みすぎたんじゃ!!!」
「落ち着くのじゃ、神官将殿!」

酒への貪欲なる姿勢!慄くメルを他所に、ブランキーは感動を覚えた!流石は大将をも罵る事が出来る謎の人形!流石は儂の同胞!儂は書いていて涙が出そうになった!だがしかし(略

(以上)

さて、そこに何事もなかったかのようにあの男がやって来た。艦長ぺ様・・・もとい、4様である。

「どうも、具合の方は?」

ササライは気持ち悪そうにしながらも、何とか、とだけ答えた。4様は苦笑するしかなかった。それもそのはず、4様はある一人の男を連れてきていた。自称ササライの部下であるハルモニアの一等市民のナンパ男を。

「ササライ様・・・何してるんですか・・・。」
「・・・ナッシュ?君こそ、何してる・・・。」
「いやあそれがね、ふとウチのカミさんに頼まれてた買い物を思い出しましてね、街道を歩いていたらどういう訳か港町に辿り着いたんですよ。此処は何処だと思って場所を聞いても名前が分からないし、雰囲気も全く違うし・・・。まさか過去の群島に飛ばされるなんて想像もつきませんよ。ファンタジーもいいとこです。」

ササライは頭を抑えながら答えた。

「・・・ナッシュ、頭痛いから少し静かにしてくれ・・・。」

見目麗しき神官将は何とも情けない台詞を吐き、そのまま眼を瞑った。
医務室に数十秒間の沈黙が訪れた。あれほど気持ち悪がっていたササライは気持ち良さそうな寝息を立て、今にも襲ってくれと言わんばかりの寝顔で寝ている。とはいえナッシュに上司、ましてや男を襲う趣味などないし、4様もまた然り、メルも酒臭いササライなど襲いたくないと、ある程度距離を置いていた。
さて、数十秒後。突然医務室をノックする音が聞こえた。4様が扉を開けるとそこには・・・。

「・・・なんだ、お前もいたのか・・・。じゃあ俺後でいい。」

不幸オーラを醸し出しているこの船の住人と思われる少年は、そっけない口調で意味深な言葉を残しその場を去って行った。
さてこの少年、メル達は見覚えがあった。何故ならつい数時間前まで彼と顔を合わせていたのだから。

「あの人確か・・・。」
「げへへへ、悲劇の親友テッドだ。これはいじり甲斐があるな。」
「ブランキー!」

テッドが心から親友と呼べる人物に会うのはこれから150年先の話である。この頃のテッドはまだ荒みきっていた。ウィンディの追手から逃れ続け、一時ソウルイーターを外した事もあった。それでも、彼はあえてソウルイーターと共に歩む事を決意した。そのきっかけとなったのが、フジテレ・・・ではなく4様との出会いである。

「おい、あれ見ろよ。」
「え?・・・テッド、君って・・・。」
「馬鹿!その隣だ隣!すげえだろ!」
「・・・まあね。で、僕にどうしろと?」
「頼む親友!一生のお願いだ!あれを取ってきてくれ!」
「テッド、それ何回目?」

群島での戦いの150年後、彼はグレッグミンスターのマクドール邸で昔の事をふと思い出していた。

「窓辺にたそがれる少年ありとて されば悲しきその古の思い出を・・・。」

親友は何を思ったか突然漢詩風に詠いだした。昔のテッドなら「フン」の一言で終わっていただろう。だが今は違った。しっかりツッコミをするようになっていた。彼の顔には笑顔が戻っていた。その背景にあったのは4様の力なのかもしれない。

「ゲヘヘヘヘ!物語の趣旨が変わってるぜ!」
「全くだ・・・。テッドと坊ちゃんの友情物語じゃないだろう・・・。」
「今回も俺様の出番がないぜ!いつになったら出させてくれるんだ!げへへへへ!」



トップページに戻る