デュナン統一戦争から早15年が経過したデュナン国。名大統領と呼ばれしテレーズ・ワイズメルに会う事無く、一人の少女と人形はこの国を後にした。
目的地は遥か南、群島諸国。トラン、カナカンを経由し、舟で行かなければならない。
何をしにいくかと言えば、解放戦争の150年前には群島と大陸南部にある国で大きな戦争が起きたという。それに参加するのだ。物理的には無理である。時をかける少女ビッキーがいない限り。だが、この物語はそれを可能にする。してみせる。
謎の美少女メルと人形ブランキーは一週間以上歩いてようやく大都市に辿り着いた。トラン共和国の首都グレッグミンスターである。彼女らは一度この町を訪れた事がある。だがよりによってこの国で一番敵に回すと厄介な一家を敵に回してしまった。しかもそこの若干20歳前後の当主は解放戦争の立役者で、統一戦争にも参加していたお偉いさんである。普通ならメルらは厄介者になるのだが・・・。
「坊ちゃーん!テッドくーん!シチューが出来ましたよ〜!」
「お、今日はシチューか!グレミオさんのは美味いから楽しみだよ!」
「・・・、テッド、何ちゃっかり出演してるんだ?ソウルイーターはもう僕に宿ってるんだぞ。」
「気にするな、親友♪」
「気にするぞ。シークの谷で多くのプレイヤーの涙を誘ったであろうあの悲しい別れはどうなった?滅多に見せない僕の涙をどうしてくれるんだ!」
「怒るなよ・・・。」
「まあいいけどさ。そうでしょ、お客さん。」
何故かメルらは歓迎されていた。あれだけブランキーが失礼な事を言ったにもかかわらず。当主の目にはどす黒い光が宿っていたが。
「・・・で、群島に行くんだっけ?」
「え、ええ・・・それより、何であんな大怪我して、あの女の人に優しくしてもらって、平然としていられるんですか?」
「ホウアン先生の治療の賜物さ。カスミは付き添ってくれてたね。助かったよ。」
「・・・それだけ?」
「他に何を求めるのさ。」
メルは密かに舌打ちした。メロドラマ的展開があれば、ブランキーを使ってからかってやろうと思っていたからだ。
メルは五行の紋章戦争で、あのゼクセン騎士団のクリス・ライトフェロー団長を弄ぶ程の人物だった。だが、これまで仕掛けた相手の中で動じない、逆に反撃してきた人物が二人いた。解放軍リーダーと同盟軍リーダーである。メルにとっての最強の敵だった。ルックやセラでは相手にならない。狂皇子ルカ・ブライトですら追ってきたものの途中で諦めたのである。だが二人は違った。前者は最後まで徹底的に甚振り、後者は完全無視に徹したのである。これだけ見れば同盟軍リーダー、通称2主の方が上手に見えるが、実はただぼーっとしているだけとの説もある。真偽は不明だ。
メルはグレミオ特製のシチューを食べながら考えた。ここをどうやって脱出しようかと。解放軍リーダー、通称坊ちゃんの右手はどす黒く光っている。テッドはそれに気付いているらしく、何やら怪しい呪文を唱えている。一波乱ありそうだ。・・・が、食事が終わっても、客室に行っても何も起きなかった。気のせいだったのだろうか。
その頃一階では・・・。
「しかし、それは・・・。」
「頼むよ、カスミちゃん♪」
主従二人だった。激しく怪しい会話を交わしている。が、従者は乗り気ではないようだ。
そこで主人は無敵スマイルとウインクの連鎖攻撃を仕掛ける。
「え、あのその・・・。」
「交渉成立。うまくいったらビッキーの所に運んでくれる?後はくしゃみで何処にでも・・・。」
「は、はい・・・。」
「じゃね♪成果を期待してるよ。」
従者は動いた。グレミオを除くマクドール家容認の計画のため、特に怪しまれる事もなく。目指すはメルが休む部屋。
マクドール家とメルの愉快なお遊戯が・・・ではなく当主の黒い光メルを襲う。危うし、メル!
坊「ヒットマン・ブラボー風かい?エースの文才は凄いね。違う意味で。」
エース「余計なお世話だ。大体あんた誰だい?」
坊「通りすがりの正義の味方さ。」
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メルは客室で横になっていた。ずっと歩き続け、疲れていた。嫌な予感がするとはいえ、出来ればぐっすり眠りたかった。だがマクドール家はそれを許さなかった。誰かが客室の前に立ち、ドアをノックする。
「何方ですか?」
「家の者です。少々宜しいですか?」
「はい・・・。」
メルは少し躊躇ってドアを開けた。すると・・・。
「うっ!」
「悪く思わないで下さいね・・・。これも仕事なので・・・。」
くノ一の顔となったカスミはメルの鳩尾に一発拳を入れ、あっさりと気絶させた。
「流石ロッカクの里の副頭目だね。見事なもんだ。」
部屋の外にはバンダナ腹黒少年が立っていた。全ては仕組まれた事だった。嫌な予感は完全に的中した。
「あの・・・、あとはビッキーさんの所に運べばいいんですよね?」
乙女の顔に戻ったカスミが尋ねる。
「そう。何はともあれ、後はビッキー次第・・・。頼むよ。」
腹黒ながらもリーダーの顔となった当主は何事もなかったように客室を後にした。
「ん、ん〜・・・。」
メルが目を覚ました時、そこには見た事もない光景が広がっていた。真夏のギラギラ輝く太陽、白い砂浜、コバルトブルーの美しい海。
「ブランキー・・・ここ、何処?」
「知らねぇよ・・・。」
実はここまで来るのに、こんな事が行われていた。
「・・・え?メルちゃんをテレポートさせて欲しい?・・・え、あ、あれ・・・。」
「・・・クシャミですか?用件はまだ言ってませんが失礼します!」
「くしゅん!」
普段ならビッキーも一緒にてレポートするのだが、今回だけは何故かビッキーは無事だった。突然メルらが消えてビッキーは・・・。
「ん〜、また戻って来れるよね。」
お気楽だった。
「これで・・・良かったのでしょうか。」
「大変良く出来ました。これでスッキリしたよ。ありがとね。」
一部始終を覗いていた腹黒当主坊ちゃんは、からかっているのか本気なのか、自分の前では乙女と化すくノ一の頬に礼の代わりにと軽く口付けした。
「!!!」
予想外の展開に純情くノ一は顔を真っ赤にして驚く。
「ははは、赤くなりすぎだよ。男に縁がなかったの?」
「そそそ、そんな事突然やられたら誰だって赤くなります!」
「そりゃそうか。まいいや。これからも宜しくね。じゃね〜♪」
からかっているだけのようだ・・・。そんな男に惚れた女が悪いのか、意識せずとも惚れさせた男が悪いのか。哀れである。
さて、話を何処かへ飛ばされた少女の元へ戻す。
メルはこの小さな島を一周したが、周囲には人の気配はない。以前誰かがこの島に停泊した跡はあるものの、相当の月日が経過しているものと思われる。
「困ったなぁ・・・。帰れないし・・・。」
「げへへへ、いつになく弱気だな。」
救世主は現れるのか、はてまたこのままこの島で一生を終えるのか。今は誰も知る由もなかった・・・が、物語はメルを見捨てない。見捨てたらその時点で終わりだからだ。嫌でも出さざるを得ない。奴を。
「はうううう〜〜〜〜!」
メルは聞き覚えのある声に反応し、声の元である空を見上げた。すると・・・。天から落ちてきたのはやはり彼女だった。時を駆ける美少女は着地に失敗し、腰をさすっていた。
「いたたたた・・・。」
「ビッキーちゃん、大丈夫?・・・それに何で此処に?」
「え?・・・?あの、どちら様ですか?」
「え?私だよ、メルだよ。」
「メル・・・さん?・・・以前お会いしたようなしてないような・・・。」
メルは耳を疑った後、ふとビッキーの肩に目がいき、目を疑った。少なくともメルは、ここまで露出した薄着のビッキーを見た事がない。
「ビッキーちゃん、着替えたの?」
「え?着替え?私はずっとこの格好ですよ。」
よく聞いていると、何となく口調も違う。顔の形、声、髪、確かにメルの知るビッキー本人なのだが。
「貴女が今度私を守ってくれる人?」
「え?・・・そう、なのかな・・・。それよりビッキーちゃん、ここ何処だか分かる?」
「え?ここ・・・?ごめんなさい、分からないです・・・。」
知るはずがない。何せこのビッキーはどの時代からやって来たのか分からないのだから。巷の噂ではビッキーはタイムスリップするごとに頭もスリップしていると言われる。比較的まともだった頃の彼女か、それとも五行の紋章戦争後の彼女か・・・。とにかく、この場にいては何も出来ない。メルは提案した。
「ねえ、ビッキーちゃん、何処かに移動しない?このままじゃ、私達ずっとここで生活しなきゃならないんだよ。」
「そ、そうですね・・・。」
二人はテレポートで無人島を離れた。この先どんな試練が訪れることか。どうなる!?メル&ビッキー!
ブランキー「また某壁新聞風か。それにしても今回は俺の出番が少ないじゃないか。ま、次回は俺様中心に話が動くんだろうけどな。」
2主「それはないと思う。ね、ジョウイ。」
ジョウイ「あ、ああ・・・そうだね・・・。」
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