血のバレンタインデー?

今日はバレンタインデー
ここ極寒の地・アスガルドでも、この日ばかりは恋の炎に身を焦がす暑い熱い男達の戦いが陰で繰り広げられていることを知る者は少ない・・・

ここはワルハラ宮殿内にあるキッチン。
そこに1人の男がなにやら料理らしきものを作っていた。
春の若芽のようなミントグリーンの短髪に白い肌、そしてネーブルのようなオレンジの瞳の、雪のような白い衣装を纏ったその男は、なにやらボールの中にあるチョコレートを溶かして混ぜ込めたであろうと思われるドロドロの茶色い流動液を眺めつつ、口元になにやら怪しい笑みを浮かべて、彼はやおら自分の右手首をその流動液の真上へと翳し、そして・・・・
「フッ、これでミーメは俺のモノ!!」
「兄さん、抜け駆けは卑怯ですよ」
「シド!?」
突然背後から声をかけられ、彼・バドは思わず背後に振り返った。
するとそこには自分そっくり瓜二つの男が無表情で立っていた。
顔の造りはもちろんのこと、髪の色や瞳の色さえ同じこの男は、バドの双子の弟、シドだ。

彼・シドは、兄が掲げている右手首をじっと見つめて一言呟いた。
「兄さん・・・チョコレートにそんなものを入れて、どうしようというのですか?」
「ふん、お前には関係のないことだ」
「いえ、そうはいきません。一体誰に送るつもりのチョコレートかは分かりませんが、そんなものを入れられた相手は困るでしょう?」
「別に気づかれなきゃなにも問題はねえんだよ!」
「問題大有りですよ!そんな・・・そんな・・・兄さんの生き血入りのチョコレートなんか!!」
そう、バドが掲げている右手首からは一筋の血が、ポタリポタリとチョコレートの入ってるボールの中へへと滴り落ちていたのだ!
「兄さん!そんな、チョコレートの中に自分の生き血を混ぜ込むなんてことしないでください!」
「いちいちうるせえな、お前はよ!俺がチョコになにを入れようが、それを誰に送ろうがなんてこたお前には関係ねえことだろ!?邪魔すんじゃねえよ!!」
「そうはいきません!兄さんの生き血入りのチョコレートなんて、そんな、そんな羨ましいものを貰える相手がいるなんて、弟として許せません!」
「なんでお前が許せないんだよ!?意味分かんねえ!」
「とにかく!そのチョコレートは俺が貰い受けます!いいですね!」
「なっ!?いいわけねーだろ!!わざわざ板チョコから溶かして、手首まで自分で傷つけて血を混ぜ込んだんだからよ!」
「でも。なぜに生き血なんかチョコレートに混ぜ込むのですか兄さん?」
「そんなの!生き血入りのチョコを相手に食わせれば、その相手の身も心も俺のモノにできるからに決まってんだろ!」
「・・・・兄さん。誰からそんなこと聞いたか知りませんが、真に受けてたんですか?」
「な・・にい・・・違うのか?アルベリッヒは確かにそう言ってたぞ!」
「・・・兄さん。どうやらアルベリッヒにからかわれたようですね?」
「・・・・・あの野郎・・・俺を騙しやがって!・・・ぶっ殺す!!!」
「まあまあ落ち着いてください兄さん。アルベリッヒなんかいつでも殺れます。それより今は、バレンタインチョコレートを作る方が先決なのではありませんか?」
「おっと、そうだったな!アルの野郎をバラすのはチョコを作り終わったその後だ」
それから、とりあえずバドの血が多少入ったままのチョコレートで続きを再会することになり・・・
そのバドの隣では、なぜかシドまでもがチョコレートを作り出していた。

「シド、お前もバレンタインチョコを作っているのか?」
「ええ、もちろんです」
「で、誰に送るんだ?どーせジークあたりなんだろ?」
「フッ、なにを仰るウサギさん。俺がジークにチョコなど贈るはずはないでしょう?それは他サイトのお話ですよ」
「そうなのか?俺はてっきりジークに送るのかと思っていたが・・・というかウサギさんって何だよ?」
「ま、そんな細かいことは気にしないでください」
「・・・・で、やっぱ、ジークじゃねえってことは、俺か?」
「いいえ・・・もちろん兄さんでもありません」
「な。なんだそうか・・・ホッ」
内心安心するバド。
「でもよ・・・ジークでも俺でもないってことは、一体誰に送るんだよ、チョコ?」
「ふ、さあ、誰でしょうね」
「・・・嫌味な奴だな。お前」

それからしばらく2人は黙々とチョコレート作りに専念していたが、最後の仕上げにと、バドは怪しい子瓶を取り出すとその中身をチョコレートに注ぎ込んだ。
そしてシドも同じく懐から謎の子瓶を取り出すと、兄と同じように自分のチョコレートにその中身を注ぎ込んだ。
2人共口の端に妖しい笑みを浮かべつつ。
その光景は側からみたらかなり不気味で怖い絵になっただろう。
が、幸か不幸かその現場を目撃してる者は誰一人いなかった。

さっそくチョコレートも作り終わり、それを綺麗にラッピングして、ご丁寧にメッセージカードも添えつつ、バドとシドの双子は満足げに頷いた。
「よし、これで完璧だ!」

それから早速そのチョコを意中の相手に渡すことになったのだが、バドとシド、2人はまったく同じ相手の家の前にいた。
その相手というのは、炎のような赤い髪に、血のような紅い瞳、いつもクールでなにを考えているのか分からない、年齢、性別、共に不詳の竪琴使い・ミーメだ!
「フッ、まさお前がチョコを渡す相手がミーメだとはな・・・」
「俺も兄さんがミーメを狙ってることは知っていましたが、まさかこうも被るとは・・・」
バド・シドも、自分たちの恋敵がまさか双子の兄弟と知って多少の驚きは隠せなかった。
「ふん、だがミーメはどっちみち俺のものだ!この媚薬入りチョコを食べればおのずと俺のものになるからなあ!」
「いいえ、そうはいきません。ミーメが俺の惚れ薬入りチョコを食べたら、ミーメは俺のものになります!」
「なっにい!?そうはいくか!」
バドとシド、2人の視線が激しく火花を散らす。
と、そのとき。
「君たち・・・、先ほどから人の家の前でなにをしている?」
ミーメが二人の気配に気づいて、家から出てきたではないか。
「お、ミーメ、ちょうどいいところに、実はお前に渡したいものが・・・」
「ミーメ、兄さんのよりも俺のを受け取ってください!」
バドシド双子から同時に謎の包みを渡され戸惑うミーメ。
「・・・なんだね、これは?」
疑問符を浮かべる彼に、双子は言った。
「今日はバレンタインデーだろ?ということは、分かってるよな?」
「さあ、ミーメ、俺のと兄さんの、どちらを受け取るのですか?」
2人にじりじり詰め寄られ、ミーメは困り顔だ。
そもそもバレンタインデーがどういう日なのかも興味のないミーメに、どちらか一方を選べと言われてもどうしようもないことだった。
とりあえず「そんなものに興味はない!」とあっさり返すのもよかったのだが、せっかく2人が持って来てくれたものだし、その好意を無下にするわけにもいかず、とりあえずどちらか一方のでも受け取ってやってもいいかとか思っていたりするミーメ。
そして・・・・

バドの、媚薬入りのチョコか?
それともシドの、惚れ薬入りのチョコか?
果たしてミーメはどちらのチョコを選んでしまうのか?

次回、こうご期待!?


あとがき

ちょっと遅れちゃいましたが、一応バレンタイン小説です。
でも続きはまだ考えてなかったりします^^;(ダメじゃん)
トップページに戻る