切なる想い


「ねえ、ハーゲン・・・・、雪が綺麗ね」
漆黒の空から、ヒラヒラと舞い散る銀色の輝きをぼんやり見上げながら呟いたフレアの言葉に、ハーゲンもただ頷いた。
(そうですね、フレア様)
ここアスガルドでは決っして珍しくもない雪景色。
むしろ、いつも見慣れてるはずのその光景。
ただ、いつもと違うのは・・・
そこに「彼」の姿がないことだけ・・・・

フレアは、目の前の墓前に、花の首飾りをそっとかけた。
この極寒の地・アスガルドでは花は滅多に咲くことはない。
それでも彼女は愛する彼のため、少し遠出をしてまでわざわざ花の咲いている場所まで行って摘んできたのだ。
「見てハーゲン、綺麗なお花でしょう。あなたのために摘んできたのよ」
フレアは彼の墓前に話し掛ける。
もちろん、彼女の問いに答える声など聴こえない。
「どうして、ハーゲン。どうして?あなたはどこにもいないの?」
(・・・フレアさま・・・・)
「ハーゲン・・・・あなたに逢いたい・・・・、どこにいるの・・・?」
墓前に座り込み、かすかに震えるフレアの肩に触れたい。
その凍えた身体を抱きしめて温めてあげたい。
でも、今の彼にはそれはできなかった。
触れたくとも、抱きしめたくとも、その身体はするりと彼女を通りぬけてしまう。
彼女のその大きな緑の瞳から、大粒の涙が溢れては、頬を伝って落ちていく。
その涙を拭ってやることもできない。
自分はここにいるのに、彼女には見えない。
もう、触れることも、話すことも、見えることもできない存在になってしまった。
それでも、確かに自分は彼女のすぐ側にいるというのに。
どうすれば、彼女に自分の存在を気づいてもらえる?
どうすれば?

その時、一陣の風がフレアの薄い金髪を軽く撫でていった。
それはとても優しく、そして暖かい風。
こんな極寒の地ではありえない優しい風だった。
「・・・ハーゲン?」
とっさにフレアは振り向いた。
だが、そこに彼がいるはずもなく、ただ白い冷たい雪と氷の景色があるだけ。

それでも彼女は気づいていただろう。
たとえ姿は見えなくとも、そこに彼がいるということに。

「・・・そうよねハーゲン・・・、たとえ姿は見えなくても、あなたは私の側にいてくれてる。感じるの、あなたのぬくもりを、気配を・・・」


それからフレアは、神闘士たちの墓前にそれぞれ花を手向けると、姉・ヒルダのいるワルハラ宮殿へと戻ってきた。
「お姉様、今日ね、ハーゲンと逢ってきたのよ」
「そう、それはよかったですね」
「ええ、それでね、彼といろいろとお話したの、楽しかったわ」
「そう・・・」
「彼ったらおかしいのよ。冗談ばかり言って私を笑わすの」
ヒルダは、楽しそうに話すフレアの話をただ静かに聴いていた。
「ね?お姉様、おかしいでしょう。ハーゲンったら・・・ハーゲンったらね・・・・」
「・・・フレア・・・」
いつの間にか、フレアの声は震えて、途切れ途切れに呟く感じになっていた。
そして、突如黙り込んだと思ったら、震えた声で、最後にはこう呟いた。
「ねえ、どうして?、どうして?、彼は、死んでしまったの?」
「・・・フレア・・・・」
ヒルダは妹を優しく抱きしめて慰めてやることしかできなかった。

突然、愛するものを失った悲しみは、フレアにとって計り知れないものであろう。
そしてそれは、ヒルダも同様だった。
それでも、たとえ姿は目に見えなくなっても、彼ら神闘士たちの魂は、彼女たちの心の中でずっと生き続けることだろう。
永久に・・・・



あとがき

突然、書いてみたくなりました。ハーゲンvフレアの悲恋話ですか。
突然愛する人を目の前で亡くした悲しみは癒せるものなのでしょうか。
兵庫の電車脱線事故のニュースを見て、心が痛みます。
でも亡くなった人たちの魂は、永遠に、残された人たちの心の中で生き続けてますよね。
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